昆虫アレルギー*・寄生虫アレルギー Insect
Allergy・Parasite Allergy 石井 明 自治医科大学教授・医動物学 -------------------------------------------------- T.昆虫アレルギー 診断のポイント 昆虫アレルギーは昆虫由来物質の吸入によるもの,刺咬によるもの,接触によるものに大きく分けられる. 【1】吸入によるもの @屋内環境アレルゲン(indoor
allergens):家屋内に生息,検出される昆虫・ダニ類は多種にわたるが,その内で最も普遍的で重要なものは屋内塵に生息しているチリダニ科ヒョウヒダニ属の小さなダニである.例えば,アレルギー性小児気管支喘息患児の70〜90%はヒョウヒダニに対する反応を示し第1位を占めている.また,アトピー性皮膚炎における重要性も指摘されており,アレルギー性鼻炎においても最も重要である.家屋内に一般的で肉眼視できるゴキブリについても,近年その重要性を指摘する研究グループがある.ユスリカ類も一部屋内にみられるが,人間の生活・生態からして最もその数が多いのはヒョウヒダニアレルギーである. A屋外環境アレルゲン(outdoor
allergens):ユスリカは蚊に似た小昆虫で日本には500種も知られてきた.これらは生態に応じて河川,湖沼に棲みついているが,水質汚染の進行などで大発生が報告されている.都市の中小河川においては,セスジユスリカ,湖にオオユスリカ,アカムシユスリカ,水田にミヤコムモンユスリカなどが知られる.これらの成虫が死殻となって堆積し,やがて空中に有機微粒子として舞い環境アレルゲンとなる.ヨーロッパでは水中のユスリカ幼虫を凍結乾燥して熱帯魚の餌とするため,これを扱う人に吸入アレルギーが発生したが,日本に製品が輸入されたこともある.別種のユスリカが使われているので同一扱いはできない.蝶や蛾の鱗粉が空中に舞うので,これを吸入して感作されている人が多いとの報告がある.季節的に発生するトビケラ,カゲロウに由来する物質もアレルゲンとなる.カイコは養蚕の盛んな頃は職業性喘息の原因として知られていた.これら昆虫のアレルゲンは相互に共通交叉性を有しているようであるが,ヒョウヒダニとの交叉はないとされている. 【2】刺咬によるもの ハチは防御・攻撃的にヒトにその毒液を刺すことがあり,カ・ブユなどは人を吸血する際に唾液などを刺す.これらがアレルゲンとなって人を感作し,最も重いとアナフィラキシーショックを招来し死に至る.中でもハチによるショック死は毎年届出だけで40例を超えるほどである.森林労働者ではほとんどの人がハチ刺咬を受けており,職業病ともいえる.アシナガバチ,スズメバチ,ミツバチなどが多く,局所の痛み,反応だけでなく,発疹,気道閉塞,意識障害からショックに陥る.救急事態として対応する必要がある.カ刺咬はすべての人に一般的で,皮膚反応を生じるが,中に強度の腫脹がでたり,しばらくして局所壊死を生じたりする重症刺咬例が日本に多く報告されている.これらに予後不良例がみられ,malignant
histiocytosisが多いとの指摘があるので注意を要する.ブユ刺咬は地方的に季節的に発生し,T型反応の他,局所反応の強い例がよくみられる.この他刺咬を起こす昆虫・ダニに対する反応が種々みられる. 【3】接触によるもの ドクガ(毒蛾),チャドクガ,イラガなどの幼虫,成虫に毒物質が知られ,アオバアリガタハネカクシ,カミキリモドキなどの毒物質による皮膚炎が報告されている.症状の診かた 【1】吸入によるものは,喘息,鼻炎,皮膚炎の診療に準拠するが,ジョギング中にユスリカの蚊柱に会い,虫体吸入で急性発作を起こした例もある.季節性,地域性,職業性のものは,それらの問診を行う. 【2】刺咬によるものは,状況をよく問診し,局所反応以外の症状についてよく調べ,全身症状からアナフィラキシーショックに至ることのないように,早く搬送して治療につなぐことが肝要である. 検査とその所見の読みかた 【1】特異的抗体の検出:特にIgE抗体についてRAST,ELISAなどを用いて測定する.外国の抗原と日本では種が別であることには注意する.皮膚テストを行う場合も同様である. 治療法ワンポイント・メモ 【1】吸入によるものは,アレルゲンをまず避け,除去を指導する. 【2】刺咬によるものは,局所の治療もさることながら,全身症状に注意し,アナフィラキシーショックの恐れがある場合には救急対応し0.3〜0.5mlボスミン皮下注,補液などを考慮する.減感作療法は日本ではまだ一般的でないが,どのような患者に,どのように行うか外国では検討が進行している. U.寄生虫アレルギー 診断のポイント 寄生虫感染に伴って起こるアレルギー反応は多種・多様に知られている.これらの現象を寄生虫アレルギーと総称するが,その根本となっている寄生虫感染を診断することが肝要である. 寄生虫感染はウイルス,細菌などとは異なり,核を持つ細胞動物(真核生物)であり,単細胞の原虫(原生動物)から多細胞の蠕虫にまで広がっている.そのうえ,栄養体,シスト,幼虫,成虫とステージに変化があり,虫卵が抗原として重要な役割を果たすものもあり,複雑な様相を呈する. いずれも免疫反応を招来するが,即時型・遅延型過敏症として,生体に好ましくないアレルギー反応を生じることがある. 【1】原虫感染症 遅延型過敏症の形を呈するものが多い.リーシュマニア症の皮膚病変は細胞性免疫のモデルとして使用されている.マクロファージに細胞内寄生をする特性を有している.抗体産生は免疫血清診断に応用される.四日熱マラリアの腎炎は免疫複合体によるものである. 【2】蠕虫感染症 @線虫感染症:腸管寄生線虫においても,回虫症腹痛,イレウスあるいは幼虫の体内移行時の肺症候(Loeffler症候群)にアレルギー機作が指摘されている.経皮感染する鉤虫類にあっては,その皮膚炎,また経口感染時のズビニ鉤虫にあっては,若菜症と呼ばれる症候としてじんま疹,喘息症状もある.組織寄生線虫においては,日本に多いアニサキス摂取時の急性胃炎・腹痛にアレルギー機作が指摘されている.虫体の肉芽腫には好酸球集結があり,犬回虫感染,顎口虫,広東住血線虫,アニサキスなどがあげられる.糸状虫症(フィラリア)の熱発作(くさふるい)はアレルギー反応であるとされ,ジエチルカルバマジン投与時の発熱もミクロフィラリア(幼虫)殺滅による抗原放出に対する同反応であるといわれる.熱帯性肺好酸球増多症もフィラリア感染とされる. A吸虫感染症:住血吸虫感染時の皮膚炎はセルカリア(有尾幼虫)に対するアレルギー反応であり,虫卵結節は好酸球集結を伴う遅延型過敏症として研究されたが,日本住血吸虫では虫卵に対するT型反応が重要な役割を果たしているようである.日本では即時型皮膚反応は患者のスクリーニングに使用された.肺吸虫症の診断にも成虫VBS抗原が即時型皮膚反応として使用され,ミヤザキ肺吸虫感染でも高IgE値が知られている.肺吸虫,肝蛭の病変には好酸球集結がみられ,Charcot‐Leyden結晶もみられる. B条虫感染症:エキノコックス症(包虫症)の摘出手術の際に包を破ると包虫液が手術野に漏れ,アナフィラキシーショックを起こす危険があることは,よく指摘されている. 検査とその所見の読みかた 【1】高IgE値,好酸球増多・集結は,寄生虫感染の可能性を考えて原因を検査する. 【2】多くの寄生虫症は,糞便・尿・血液などの検査により,虫体・虫卵が検出されるが,組織型の感染にあっては,病理組織検査,免疫血清学的検索を必要とする.専門教室に相談することができる. 【3】内視鏡検査ほか画像診断などの進歩により今まで困難があった寄生虫症も診断できる場合が増えてきている. 【4】寄生虫症の診断はまず,想定することが重要な出発点となるので,生活歴,生食嗜好,ペット,海外渡航歴などに注意し十分問診する. 治療法ワンポイント・メモ 【1】寄生虫アレルギーは症候であるので,そのもととなっている寄生虫感染を正しく診断することが肝要である. 【2】治療薬としては入手困難な稀用薬もあるが,専門教室に相談できる.厚生省研究班にも準備された施設がある. |