表紙へ

 

10ヶ月健診のポイント

1.健診の意義        meaning

10ヶ月は異常が発見され易いKey Month です。運動発達では自分でものにつかまって立てるつかまり立ちが可能になります。またほとんどの乳児は這い這いをするようになります。 精神発達では「イヤイヤ」「バイバイ」などのものまね動作ができることが大切です。「いけません」というと手を引っ込めて顔を見るのは大人の命令がある程度理解できることを意味します。「マンマ」は特に言わなくても異常とはいえませんが、呼びかけると振り向くとか、紙を丸めた音に反応するかなど聴覚の異常が無いかを確認します。 またこの頃から指で小さいものをつかめるための誤飲事故が多く、這い這いなどの移動運動がスムーズにできるようになるため、転落、熱傷、溺水などの大きな事故に遭遇しやすくなります。そのため、この時期は、その予防のための啓発が必要です。 お母さんが孤立していないか、困ったときの相談相手やよき理解者がいるかどうかを知ることは、育児ノイローゼや児童虐待を予防するためにも大切なことです。


2.健診のすすめかた    method

A) 発育をみる
生後9〜10ヶ月児の体重は平均8〜9kgぐらい、身長は70〜74cmぐらいに成長します。今までの発育が発育曲線に沿ったカーブを描いていることが大切です。そういった中で身長、体重、頭囲が10〜90パーセンタイルの幅の中にあれば発育は問題ありません。3パーセンタイル以下もしくは97パーセンタイル以上の場合や4ヶ月健診時より発育曲線のずれが大きい場合には以下のように取り扱います。
身長:1歳6ヶ月、3歳児健診で経過をみます。
体重:食べぐあい飲みぐあいを聞き、保健師とともに指導し経過をみます。
頭囲:精密検査が必要。かかりつけ医がいればそこへ、いなければ専門医に紹介します。

B.聴診、視診・触診
診察は視診、聴診は母親の膝の上で、腹部触診は背臥位で行います。 この時期はつかまり立ちからつたい歩きへと発達する立位の状態をみるのが重要です。しかし、ひとつのことをしないから異常と決め付けず、専門医に紹介する場合も「念のため」と説明し、養育者に強い不安を与えないような配慮が必要です。

(1)聴診
  心雑音や呼吸音の異常がないか聴き取ります。

(2)視診と触診
  頭部→頸部→胸部→腹部→陰部→股関節と観察してゆきます。
大泉門が閉じていないか、頸部に腫瘤やリンパ節がないか、また特異な顔貌、貧血、血管腫、湿疹、アトピー性皮膚炎などの皮膚の状態も観察します。肝脾腫や腹部の腫瘤の有無、臍ヘルニア、そけいヘルニア、性器の異常(女児では陰唇が癒着して排尿に問題がある場合は産婦人科紹介)、陰のう水腫、停留睾丸、包茎(亀頭部はみえなくてもこの時期は問題ありません。ただ、おしっこのときに風船のようにふくらんで、おしっこが出にくい時は手術の適応となります。)などの有無をチェックします。また股関節脱臼(開排制限、大腿部のシワの非対称、足の長さにて判定)をチェックします。

C.発達をみる
発達は腹臥位→座位→立位→パラシュート反応の順に評価します。
腹臥位を嫌がらないかどうかを観察した後、座位にします。腹這いを嫌がる場合、後述するshuffling babyの可能性があります。 座位は十分に安定して、横にあるものも手を伸ばしてつかむことができます。 次に垂直位に抱き上げ、ベッドに足をつかせます。10ヶ月児ではつかまってしばらくの間立っていることができます。 抱き上げても足をベッドに付こうとしない場合、お座りまでの発達がほぼ正常であればshuffling baby(いざりっ子、図1)が疑われます。腹這いを嫌がり、這い這いをせず、いざって移動する特徴があります。歩行開始はややおくれますがその後は順調に発育することを説明して1歳半ころまで経過をみても良いでしょう。しかし気になる場合はかかりつけ医もしくは小児神経の専門医に紹介します。
パラシュート反応(図2)は上体を両脇から支えて前方へ落下させると、防御的に上肢は進展し、手を開いて着こうとする反応です。8ヶ月頃より見られ始め10ヶ月ではほぼ全員に出現します。反応がみられないのは精神発達の遅れを、左右差が見られるには片麻痺、開き方がおかしいのは脳性麻痺を疑い、他の発達異常がないかをチェックします。

図1 Shuffling baby

[註] シャフリングベビー(Shuffling baby)
全身の筋トーヌスが軽度に低下し、寝返りや腹ばいになるのを好まず、腹の下を支えて下肢をつかそうとすると、図1のように股関節を屈曲して、下肢を伸ばしてつこうとしない(Shuffling)乳児。首の周りは正常ですが、お座り以降の発達遅れ、座ったまま腰をゆすって移動するのが特徴です。家族性にみられることもあり、知能の発達は正常です。通常1歳6ヶ月〜2歳の間に初めての歩行がみられ、後は正常な発達をします。ただし、ときには神経筋疾患や脳性麻痺を持つ乳児でもShufflingがみられることがあり注意が必要です。

図2 パラシュート反応


  a.正常           b.異常             c.片麻痺           

パラシュート反応は診断的価値が高い検査のひとつですが、泣いているときや緊張の強い子の場合は暴れて頭を床に打つ心配もありますので、そんなときは注意して行ってください。

お母さんの質問に答えるQ&A

(1) より目かしら
  赤ちゃんはより目にみえることがよくあります。目と目の間の皮膚が左右に広くて白目のところを隠してしまうからです。これを偽斜視(仮性斜視)といいます。ペンライトで両眼球の光反射をみます。異常がなければ、赤ちゃんの成長とともに鼻の根元がもりあがって皮膚が中央にひきよせられると、より目にみえなくなってくることを説明します。ペンライト検査で少しでも異常を疑えば、躊躇無く眼科を紹介したほうが良いでしょう。

(2) おむつかぶれ
  おしっこやうんちが肌にのこっているからです。おむつをかえるときお湯でよく洗い流すことがたいせつです。濡れテイッシュや濡れガーゼでふくのは十分ではなく、する際もこすりすぎないよう注意します。

(3) 停留精巣(睾丸)
  生後10ヶ月以降、精巣の自然降下はほとんど期待できないこと、停留精巣児の生殖細数が1歳以降、進行性に減少する、放置による悪性化などを考慮して、1歳前後の早期手術が推奨されています。

(4) 臍ヘルニア、そけいヘルニア、包茎は?
  臍ヘルニアは、3歳頃まで経過をみます。そけいヘルニアはそろそろ手術のことを考慮します。包茎は亀頭部がみえなくてもこの時期は何もしません。ただ、おしっこのとき風船のようにふくらんで、おしっこが出にくいようなときは小児外科医を紹介します。

 

表紙へ