「医事紛争予防のために医師が注意すべき事項」講演会報告
2000.9.11小郡三井医師会 講師:鶴田哲朗先生(福岡県医師会顧問弁護士)

A.一般的な話しとして
・医療事故を完全に防ぐのは不可能。しかし医療事故が全て医事紛争になるわけではない。医療過誤があったか、医師の注意義務違反があったかが問題となる。
・ 全国の医事紛争の件数は年間約8000件、その内8%の約640件が裁判となっている。裁判となった中で「判決」になるのが45%、「和解」となるのが55%。
・ 近頃は請求額が1億を超える例がときどき見られるようになってきた。日医の保険額も増額すべきでは。
・ 以前は物理的なミスに対する事例(例:術後に腹腔内にガーゼを忘れた)が多かったが、近頃は判断のミスに対する事例(例:癌の見落とし、手術がうまくいかなかったときの手術を行った判断が正しかったかどうかなど)が多くなった。
・ 検査における事故が問題となり易い。(例:心臓カテーテル検査中に穿孔を生じ死に至った例では家族は納得できない。)
・ インフォームドコンセントについて:患者が理解できる内容での充分な説明があり、その上で患者の同意があったか。
・ 裁判上医学的な判断を行うときに、大学病院の医師などの鑑定を依頼することがある。
・ 医療レベルについては、平均一般的な医師の知識のレベルに鑑みて妥当であるかが問題となる。医師としては常日頃より、新しい知識の習得を心掛けておく必要あり。

B.医師が心掛けるべき事項
@. 常に医療技術、能力、知識の向上、更新(renewal)を行う。
A. 患者との信頼関係を保つ。(いつも自分の身内だったらと考えて対応する。)
B. 他の医師との人間関係を重視する。(前医の批判から問題が生じることがある。)
C. 問診、検査結果を重視する。(血液検査結果の見落としの事例あり)
D. 患者説明を重視する。(治療法、副作用についてなど)
E. カルテ記載を行うこと。患者説明の内容も記載する。
F. クレームへの対処法について:ポケットマネーでの一時しのぎは行わない方がよい。「金になる医療機関」という陰のうわさがひろまり第2、第3が現れてくる。
G. カルテの改ざんは行わないこと。プロが見たら必ず分かる。グレーを白に見せようとしてもしそれが分かったら、元のグレーには見てもらえず黒に見られる。

C.会員からの質問への回答
Q1:無診療投薬について:医師が不在時(往診中、手術中など)に職員が投薬するケース、家族が薬だけ取りに来るケースなど
A1:このようなケースで無診療投薬と判断されることはあり得るが、実際にはそれ程問題とはならない。要は、医師が患者の状態を充分に理解して投薬を行ったかどうかが問題となる。

Q2:事前説明義務について:検査、処置、治療などに伴う危険性、副作用などについてどこまで説明しておくべきか。
A2:細かいところまでは不要だが、ある程度の危険率があるものは説明の時期などにも配慮して一応説明しておく必要がある。薬の副作用については、喘息患者における鎮痛剤を併用しない注意などは必要。

Q3:医事紛争で1億以上の損害賠償の支払となった場合、1億は医師会の保険からで残りは個人あるいは個人の保険会社での支払いとなるか。
A3:1億を超える部分については原則的に個人の支払となる。(厳密に言えば判決内容にもよるがA1会員あるいはA2会員の過失による医療事故となり1億以上の支払となった場合は、日医の賠償保険から9900万円、損保会社から100万円出て、残りは個人の支払となる)

Q4:診療拒否について:医師が飲酒を理由に診療を断った場合や、患者が医師の指示に従わないために診療を断った場合は診療拒否になるか。
A4:ならない。

Q5:いわゆる保険病名と実際の病名との間にカルテ上のギャップがあった場合、問題となった事例があるか。
A5:保険病名は保険上のテクニックとして裁判所は了解している。

Q6:生命保険会社が患者の同意を得てカルテ上の患者情報を求めてきた場合、患者に不利な情報をもし出さなくて問題となった事例はあるか。
A6:あり得る。

(以上の内容については鶴田先生のチェック済み。) 文責:柳 純二