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M先生と自動車
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| 小郡市 古川和宏
M先生の車はダークグリーンのコロナであった。ミッション(手動変速)であり、パワステではない。サイドミラーはフェンダーの上についていた。車体についた傷跡はながい歴史を物語っていた。先生は白い手袋をして運転される。ハンドル捌きがし易いからである。時々、先生の車に乗せても
らったが、色々と昔の話を聞かせてもらった。「若い頃は大事な時にノーと言えなくて後で困っ たことになる場合が多かった。」と言われたのが 妙に印象に残った。その後先生が公平な立場でノーと言われる場面に何回か出くわしたが、お蔭で我々は過ちを未然に防ぐことが出来たと思っている。ある時往診中に先生の車の横腹にバイクが激しく衝突した。相手の人は仕事中で、バイクはかなり壊れたらしい。しかし怪我はなく、まあよかったということで、そのまま別れられた。その夜その相手の人は夫婦揃って先生の家を訪ねて来られた。深くお詫びをして、先生の体に異常はないか。先生の車は相当に傷んでいる筈だと言われる。しかし先生は「この通り私は元気だし、どこも怪我し
ていない。私は医者だから自分の体は自分でわかる。車も大丈夫。」「そんな筈は無いと思います。 私のバイクは滅茶苦茶ですから。」と言っても先生は何ともないと言われる。もっとも先生の車はもともと傷だらけだから何処が新しい傷かわから
なかったのかも知れない。その夫婦は深く恐縮し 菓子折を置いて帰って行かれた。 |