老後の趣味
小郡市 西原貫二

 あした死ぬかも判らないのに、老後のために囲碁を習い始めた。碁は25年前、久大第 1内科の当直室で先輩から教わって面白かったのと、品がいい趣味だと思ったからだ。
 月に2回大野城からわざわざプロ棋士に来ていただき、近所の整形外科の先生と2人で指導を受けている。月に2回しか碁を打たないので仲々上達せず、逆に今まで続けてきた謡曲やゴルフがお留守になって、どれもこれも駄目になってしまったようだ。
 NHKテレビで日曜日の昼12時より放映される囲碁講座とプロの対局は梅沢さんというバストの小さい美人女流棋士が司会するので必ず診ているが、50手を過ぎた頃からねむくなり、ちょっと複雑になるとすっかり寝込んでしまう。
 そろそろ他流試合してみたらと先生に勧められ、小郡医師会の囲碁大会に参加してみた。先生はぼくの実力を3〜4級位かなと云われたので、遠慮して5級で申告した。5級なら初段に5目も置けるので、ほぼ勝つだろうと内心余裕を持って試合にのぞんだ。ところが意に反して4戦4敗、それこそコテンパンに敗けてしまった。命からがら家に帰って寝たものの天井に碁石がチラ チラして、あの時冷静にこうしておれば完勝だったのになどと反省するうちに、碁は相当品の悪いゲームだなと思い知った。
 もともとゲームやスポーツは相手の弱点を攻めて勝つもので、人間性の悪い者が勝負強いと信じていた。例えばバドミントンは敵の居ない所に羽根を落すし、右に打つとみせかけて左に打つ。これは作戦だから 仕方ない。しかし何故か碁だけは紳士的で特別なものと感違いしていたのである。
 元医師会長との対局では、大石を取られ降参しても許してもらえずそのまま打ち続 け、彼が「バルジー大作戦だ−」と叫んだとき、ぼくの黒石は全滅していた。
 このバルジー先生と同じ町の甘木先生は独り言がひどい。NHKテレビで、かの武宮九段が雑談の折に、碁は「手談」とも云 うと話していた。つまり口でものを言わなくても、打ちおろす一手一手が雄弁にお互いの心の中を話し合っている訳で、沈然が深い程手談はいよいよ奥深いそうである。
 ところがこの甘木先生ときたら石を打ちおろすたびに3言4言、ヤパイとかダメダとかマイッタマイッタなどと口走しる。これがいやでも耳に入ってくるので、黒石を持つ手がうろうろして思わぬ所に打ってしまい、気が付くと元気だった大石の息の根が止まっていた。
 とは云っても、もともとぼくは品の悪い遊びが大好きなので、これ位ではへこたれないし益々面白くなってきた。次回の大会も必ず出場するつもりだ、耳栓をもって。