「天命に従う」

福岡県耳鼻咽喉科専門医会 理事 栗田 茂二朗 

 年々、厳しくなっています。これから先もより厳しくなっていくと思います。すべての事業、個人が二極化していく現在の社会状況、医療環境の中で、小規模入院施設を維持するには、非常な困難を伴います。しかし患者サイドからの社会ニーズは、より増して行くように思われます。
私は、気力・体力が続く限り現時点では、続けて行く決心です。
 人(人的資源の確保と教育)、モノ(施設の充実、維持と医療機器導入)、金(経営資源、財務の余力)が、公的病院、大規模病院と異なり限られた、市中の有床診療所が、入院施設を維持し経営していくには、得意分野に力を入れる必要があります。
 私の医院は、常勤医師二名、非常勤医師一名、看護師及び事務スタッフ19人の耳鼻咽喉科の有床診療所です。入院は、全例手術対象患者で、入院患者数は年間約250人程度です。手術が出来なくなった時、私は入院をやめるつもりです。
 小規模入院施設が、現在直面している問題は大きく三点あると思います。
 その一つは、国の医療政策、患者さんの意識変化を伴う社会状況の変化の問題です。このことに関しては、多くの意見があると思いますので私は省きます。
 二番目の問題は、患者サイドの立場より、身近な小規模入院施設の社会的ニーズの問題です。社会の二極化とともに大病院志向の患者が増しているように見うけられますが、逆に大規模病院の医師がややもすると使命感が希薄になり、リスクを取ろうとしなかったり、病院自身が採算に合わない手術、部門を合理化するような傾向がみられる現在、ある意
味では、患者との人間関係がより親密な小施設の社会的ニーズがこれまで以上に増しているようにも思われます。
 これは、百貨店や総合商社、ゼネコンなどすべてのものをそろえた企業のニーズが、今までより低下しているのとある意味では、似かよっています。
 三番目の問題は、医療側、とくに私達医師本人の問題です。医師自体、心、技、体を強く要求される職種ですが、個人で入院施設を維持していくには、このことが特に重要です。最近の若い医師には、心(広い心と高い志、使命感、責任感)、技(的確な処置、手術手技の研鑚)、体(自身の体力維持、ストレスに対する耐性)の鍛え方が、私達50代より甘くなっているように思われます。とくに時間と忍耐を必要とする、リスクを伴う技術の修得を避けたり、困難な事へのチャレンジを避ける傾向がややもするとあります。
 これは医師を志す動機が、社会的安定や経済的な側面にかたよっているためではないでしょうか。小規模医療施設だけではなく、すべての医師にとって、医師の使命感、魂が希薄になって行くことが、現在の医療の危機の本質的な部分と思われてなりません。
 以上、思いつくままに述べましたが、最後に吉田松蔭の辞世の旬を記します。

身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし大和魂