新事業には前提となる戦略が必要

 小郡三井医師会 会長 丸山 泉 

 県内保険者別の特定健診対象者の初年度受診率(国保分)の表があります。1月末の統計です。当医師会は小郡市・大刀洗町・久留米市北野町から成りますが、ここでは小郡市について比較します。(5月の最新統計によると受診率は福岡県21.7%、全国では協会健保35%、国保28.3%と若干上乗せされています。)市では小郡市は2位、県内平均は16.2%です。
市町村全てでは小郡市は8位で県内平均は18.2%です。ちなみに県内28市での1位はA市です。受診率が高かったことはもちろん意味のあることですが、その数字の中身はどうでしょうか。1位のA市と2位の小郡市との比較をします。誤解されたら困ります。今から述べることはA市に否定的なものではありません。県内1位は評価に値しますし、A市に関わらずそれぞれの市と医師会の事情があるのです。ここで述べたいのは小郡市と1位のA市は受診率がほぼ同じですがその中身が違うことです。
 新事業を前にして基本方針を決定しました。1、医師会員はこの事業に積極的に参加すべき。2、健診ビジネスとの対抗軸としてシステムを構築しよう。3、この制度に関わることで予防医学への知見を深める。この3つでした。もっとも楽な道、つまり行政による健診業者への丸投げだけは認めないと決めたのです。この事業に対する少なからぬ疑問もありますが割愛します。ただ、背後に営利を目的とした健診ビジネスの影を感じていたのです。医師会は目先の利益や労苦には敏感ですが長期にわたる戦略はやや苦手です。
 小郡市では9,813人が対象者で、全てが健診ビジネスの顧客になるのか私たち会員の施設を訪れるのか、長期的には大きな違いが出て来ると考えました。商売をなさっている方からよく聞きます。「先生たちはいい、自分たちの店に来てくれる人の何パーセントが商品を買ってくれると思いますか。何も買ってくれない人の心を掴まないとお客は増えません。」
9,813人が集団で健診業者を受診するのか、どれだけが個別健診として医療機関を受診されるのかは長期的には看過できません。もう一つ、私たちがかかりつけ医として日々接している患者さんやその家族との関係に健診業者が関わることでいろいろな摩擦を生じるのではないかとも考えました。例えば、家族歴などから糖尿病予備軍と分かっている方と、かかりつけ医としてじょうずに関係を作っていたにも関わらず集団健診を受け健診業者と関係のある保健指導に流れていき、それが特定の医療機関に集中する。十分危惧されることです。
 A市は対象者数が7,281人、集団健診のみ実施し受診率は36.5%。小郡市は対象者数が9,813人、集団健診は964人、個別健診は2,603人、合計の受診率は36.3%。わずか0.2%の差ですがA市で医療機関を健診のために受診した方は0人、小郡市では2,603人です。2,603人の中には初めてその医療機関を受診された方もいます。これまで大都市の大病院しか受診したことがなかった方が小郡市内の受託医療施設リストを見て、ロコミの評判を確認して医療機関を受診される。その数値が2,603人。決して少ない数字ではないと考えます。
 誌面の都合で当医師会での健診の詳細について述べることはできませんが、何度も行政(保険者)と議論して仕組みを作りました。行政は議会の承認の問題もあり財政事情を優先し競争見積もりで外注先を決定します。そこには住民のために既存の医療施設のネットワークを利用するという視点はないのです。
 めんどうなことですが、医師会は積極的に関与しなければなりません。
9,813人の方々へ私たち医師会員がどう関わるかにかかっているのですから。