「日医新執行部に望む」
 丸山 泉 (小郡三井)

医師不信と医師会不信
 実は地域の医師会の仕事をすればするほど医師会を批判することのたやすさと反面,医師会の仕事の困難さが次第にわかるようになってきました.経験から申せば物申す相手は本当は一般会員なのかもしれません.でも最大のターニングポイントを迎えている医師会の現状を考え,あえて幾つかの事を述べて見ます.
 1996年は医師会にとって最も大切な年になることはそのうちはっきりするでしょうが,戦後の医師会活動の評価は肯定するとして,ここにいたって制度的に多くの問題が噴出している事は疑いのないところでしょう.制度的なひずみは医師の仕事への理解を困難にし,想像している以上の医師不信感が日常の医療活動の中で肌に感じられます.
最近熊本で開催された厚生省主催の老年痴呆指導者講習会に参加しましたがその時のことです.ある保健婦の在宅ケアの体験発表で,「私は地域の老人や痴呆の問題を取り扱って行く中で医師会の特に内科の先生は好きにはなれません.どうしてあんなに威張るのですか,どうしてあんなに偏狭なのですか」と述べるのを聞きました.彼女の実績はその地域の在宅医療,介護を積極的にすすめた事で十分に評価できるものです.その彼女の体験の中からのこの発言には少なからず衝撃を受けました.私自身も健康教室などによばれて話す機会が多いのですが,時間が経過してお互いに気楽に話せる様になってくると,本音の会話の中で医師にたいする不満が続出することには驚くばかりです.
 どうしてこうなってしまったのでしょう.どうしたら信頼を回復せぬまでも不信感を払拭することができるのでしょうか.

医師会の権威主義
 まず医師会の権威主義は一般の人にどう見られているのかを考えて見たいと思います.すでに人々の間では医師は数多くの仕事のただの一つです.残念ながら所得の平均が多いことが表面に出たりして,社会の当然として医師集団への批判を増幅してきたかも知れません.でも本質的に問題はこんなことではない様です.ではこれは個人の問題でしょうか,医師会組織としての体質に問題はないのでしょうか.ある自治体の職員の話です,「お医者さんは何か気に入らないことがあるとすぐもう行政の仕事に協力しないが常套句です.医師会の幹部の先生とはこういう事に気を使い,じっくり医療や福祉の事を話せません.」もちろん行政のかかえる問題や官僚意識や変化を好まない体質や,力に弱いところは承知していますが.行政ともそろそろ対立した関係ではなく建設的な議論の場を作らねばなりません.お医者様からお医者さんそして医者と呼ばれるのも,弁護士でも市長でも呼び捨てされる時代なのですからやむを得ないのかも知れません.個人的にはいろいろなキャラクターの医師がいるのは当たり前で,各人自分の医師像を確信もって貫けばよいのです.ただ,組織自体に傲慢さがあると一般に考えられているとするなら,おそらく政治の世界なら政権交代.他業種なら大鉈をふるっての生き残りのため革命に近い改革が始まっているはずです.ここまでの不信感がつのるまで放置してきた組織の責任は重いと言えます.決して一部の医師がどうだからと言える問題ではないでしょう.

意思決定のシステムの見直し
 さて,ではなぜ他業種のように大鉈がふられなかったのでしょうか.組織の意志決定のルールそのものに問題は無かったのでしょうか.結果を見れば有ったとしか言えません.時代を見る洞察力が組織として反映してきたなら,現状は違って来ているかもしれません.たとえば,最近のことでは,エイズの問題で医療をあずかる最大の団体としてこれまで区切り区切りにはっきりと意志表示してきたでしょうか.行政との建設的な関係とは当然お互いが患者を忘れて気遣いし合うことではないはずです.厚生省との関係においても常に患者が真ん中に存在すべきです.0−157の問題ではどうでしたでしょうか.医師会が学術をかざすのであれば迅速な情報の配布と医師会主導の住民への働きかけがもっと出来なかったのでしょうか.学術団体としても同業団体としても中途半端な状態が意志決定の即応性と先見性を困難にしているようです.医師会も政治の世界とともに55年体制が終焉を迎えるべきなのに,一足先に政治は(混沌としてはいますが)変革の方向へ走りだしています.医師会のポスト55年体制は人事の刷新,組織の改革,政治的手法などで変化を見せているでしょうか.私どもの医師会の平均年齢は50代前半です.最近新しく開業される先生が多く,数年で一挙に若返ってきました.開業をはじめたばかりの先生の意見が良いとは単純に思えません.むしろ長い経験をもつ先生の意見の方が現実的で視野が広いのも事実です.でも,新入会の先生が自由にものが言え,新規開業後一落ち着きした頃に何らかの活動に参加出来る受け皿が必要です.ならば,地域の医師会で若い人をどしどし抜擢すればよいではないかと言われるかもしれません.医師会の長い歴史の中で,日医を頂点とした膠着した年功序列や変化をおそれる超保守性が出来上がっているのなら,ここで全世代を広範にとらえる魅力有る組織がほしいものです.
 世代別の激しい議論の中から新しい方向性を求める,そして,その議論の内部エネルギーを外への活力に転換する.
 医師会の55年体制も終わりにしなければなりません.でないと,もう戦えません.


医師会の区割りの見直し
 ここで一つの提案があります.どうせ,できっこ無いことでしょうが,現状の医師会の区割りがこれから進む介護保険,医療の次期改革と効率よく連動できるでしょうか.大胆に患者の受療行動や行政域を考え,これを再考する事は地域の会員の問題意識の共有で新たな結束と力を生むはずです.あくまで個人的な意見ですので承知していただきたいのですが.将来的には一医師会と医療福祉の行政区とを出来るだけ一致するか,あるいはむしろ先取りしてもっと広範を地域を対象とした医師会づくりがパワーを持つのかもしれません.大蔵省でさえも解体論議が進む現在です,すでに有るものの中で守るものと変えるべきものとをチェックすべきです.
 中央と地方のあり方,すなわち医師会も都市型医師会とそうでないところでは問題とするところもまるで違ってきています.新たな地方分権時代の到来は間違いのない所です.これから地方分権が進み権限が移譲された場合には地域の医師会の問題と中央でのそれとがはっきり二極化するはずです.県医師会,地域医師会,日本医師会の役割分担を再検討してほしいのです.もちろん現在の代議員制度にも再考の余地があるでしょう.時代に対応した意志決定のシステムとしては長大になりすぎています.すでに決まった話を聞きに行くのなら上京の必要はありません.相手の生の顔色を見ながら議論をし,地域の医師会員の声を伝えに行くのです.(もちろん活発な議論が行われていると聞いていますが地域医師会にはなかなか見えません)
 
情報化への取り組み
 理事をしていて疑問に思うのは配布文書の多さとその伝達の方法です.クローズのパソコン通信を使うか,インターネットを使うかは議論があるでしょうが,なぜ今もって郵送かファックスでの伝達方法をとるのでしょうか,ここで提案です.新入会員に各医師会はかなりの入会金を課しています.そのほんの一部でコンピューターを使った効率的訓育報伝達が可能です.日医の情報がデータバンクにリアルタイムで入力さえ出来ていれば,必要なものだけ自由に取り出せます.医師会の末端でのインターネットの利用者はどの地域でも医師が真っ先に取り組んでいるのが現状だそうです.(もちろん私も使っています)だのに組織として運用できないのは日医執行部の見識が古いとしか思えません.インターネットが情報の管理の面から困難との意見が有りますが,そもそも情報は公開が原則となって来ています.日医入会の条件にインターネットのアドレス取得を義務づけてはどうでしょうか.もちろんパソコンは必要です.どんなにパソコンがにがてでも電子メールなら容易に使えます.電子メールとインターネット検索が出来るならあとは何も出来なくても良いではないですか,それで十分です.どうしても守秘性のある情報なら,それだけを従来の方法で伝達すれば良いのです.ただここで高齢の方などでパソコンの取り扱いが苦手な方が必ずでてくると思いますが,この方々には従来の方法を過渡的に使う気配りは必要でしょう.例えば私どもの医師会では,もし日医の方法論として電子メールでの情報伝達が決定するなら,70%は導入可能と考えます.即応性と双方向性(アンケートの簡便さ,会員の声をリアルタイムに知ることが出来る.)から出来るだけ早期の導入が望まれます.インターネットのホームページ作成が流行ですので日医も急いでいるようですが,情報の問題に少しでも見識が有ればホームページを作らないでも何年も前に導入可能だったことなのです.医師会の50%がはじめたらあとは時間の問題です.私の理事としての仕事に担当関係の配布文書の仕分けがあります.もし文書データベースがあれば各会員が自分の責任で必要な文書を選択し,必要があればプリントアウトできます・このような時間の無駄を全国の担当理事がぶつぶつ言いながらやっているのを想像するのは悲しいことです.またいろいろなルートからのアンケートも医師会の関与でそのデータを利用できるはずです.そして組織参加への会員の主体性も生まれます.
 また,せめて日医と県医師会間はテレビ会議のシステム導入が望まれます.わざわざ上京しなくても,テレビ会議システムで十分な事があるはずです.県医師会のレベルでもわざわざ会館まで出向かなくても電話でもすますことの出来る程度の会議が多いのですから.出張費の節約でシステムは導入可能です.情報システムに対する日医の先見性のある覚悟を示してほしいのです.
 時間的,空間的な効率化は働き盛りの会員の発言の機会を増やします.

政治へのコミット
 政治へのコミットの方法です.旧来の方法で良いのでしょうか.もちろん小選挙区の問題も今後遠からず再度の制度改革があると思われますが,大牟田市医師会ではそれぞれの候補者に医療に対する質問をぶつけその回答を参考に投票行動を決定するそうです.55年体制の終焉とともに私たちの方法も変わって良いと考えます.これまで権力の中枢にずっと隣接していたからこそ医療制度の改革が実現してその恩恵を受けているのは十分に理解しますが,そろそろもっと高次元からの政治へのコミットの可能性も探ってみてはどうでしょうか.特に現在の選挙制度がもし続くなら,現場の一医師会員にしては何とも難しい限りです.すでに都市とそうでない所で画一性を持つことは至難となっています.
 
シンクタンク
 医療の専門集団としての発言の周到性が望まれます.シンクタンクの充実にもっと大胆にお金をかけるべきです.これまでの発言の多くがそうではないつもりなのに自己保全としか受け取られない,それがさらなる不信感を作る.この悪循環を断ち切るのは,綿密で周到でかつ大義のある発言です・タフなシンクタンクが必要です.(それはインターネットを通して会員と双方向で結合していなければなりません)タフネゴシエータの後ろに控えるタフなシンクタンクです.それを支えるタフなネットワークです.医者だけでもはや何ができると言うのでしょうか.


誰のために発言するか
 すべては患者のためであるというスタンスを表現型としてどう貫くかです.生じる内部矛盾をいかに医療経営の中で解決するか.これまでも医師会としての行動や発言では住民を最優先に考えて来たと思いますが,それが結果として医師不信を招いていると言う事実がある以上,今さら正当性をいかに論じようと弁解です.
 結果として(短期的にも長期的にも)医師不信の改善となる発言と行動をどう整理しうるか,整理しうる注意力のある組織をどう具体化するかが私たちに課せられた急務です.そのためにもっとシンクタンクと情報ネットワークへの投資をおしまないことです.でも民間シンクタンクは省レベルの情報の開示が無ければ無力です.同時に情報開示を強力に働きかけるべきです.身近な事では今回から始まった新指導大綱の8%ルールの判定の基礎資料である社会保険の平均値でさえ,どの時期の数値かもはっきりわからかい,そんなデータでさえ出したくないのが行政の現状なのです.情報の開示はその分析のためには当たり前の条件なのですから.今まで情報も得られず官僚抜きで何が出来たのでしょうか.不思議な医師会の主体性です.
 個人の医師としての思いと組織としての医師会の行動と発言の乖離が,組織の内部矛盾として力を無くしているのです.

おわりに
 思いつくままにこれまで述べた事は新執行部で改革が具体化しているように感じ,何かが変わりはじめたと期待しているからなのです.どうか21世紀に向かう強力な医師会づくりをお願いします.多少の出血もやむを得ないではありませんか,医者なのですから.