内科医が危ない―保険医療の抜本的改正をむかえて―
小郡市 矢野善一郎

 今日,我々内科医をとりまく環境は,厳しさを増しています.患者の大病院指向,地域内の医療機関の乱立傾向のため,平素より,医院経営は,かなり苦しい状況にありますが,9月1日より実施された今回の保険制度の改正で,患者の大幅な自己負担の引き上げによって,患者さんが受診を控える傾向となり,外来患者数が減少している医院も少なくないようです.
 内科としての影響では@健康保険の本人負担が,2割に引き上げられ,胃透視,心臓エコー等,高負担となる検査を勧めにくくなり,早期診断の遅れが憂慮されます.A老人で窓口負担1回500円 となり,単に内科だけの診療だけでなく,整形外科疾患等他科の診療も診れる医院の方が有利となり,患者もその方向に流れるものと思われます.B薬剤料の一部負担により多疾患を有する重症患者ほど高負担となり,経済的な面から,内科の治療も変更を迫られる面が出ています.
 内科医として私個人の意見としては,内科の根幹に関わる投薬が,著しく制限をうけ,多疾患に罹患した重症患者ほど不利益をうける薬剤費の一部負担金の制度は,早期に廃止して頂きたく考えております.医師会にも善処を望みます.さらに政府・与党は,年間27兆円に達し,毎年1兆円ずつ増える国民医療費にブレーキをかけるため,今後相次いで医療保険制度の改革案として@薬代の上限価格制の導入,A病気ごとに定額制の拡大,B70歳以上の高齢者独立保険制度の創設を打ち出 し,順次実施の方向にあります.
 改正案は,いずれも医師の裁量権を制限し,医療機関の減収に結びつくものであり,到底,容認出来る内容ではありませんが,今後ますます医院の経営は厳しく締めつけられる事は,確かであろうと思われます.
  しかし,現在わが国で行われようとしている患者負担増で,医療費の抑制を狙う政府・与党案が,はたして最適な政策であるのか,見直しを含め, 広く論議が必要と思われます.
 欧米との比較では,日本の医療費は(国民所得に対する比率は7.1%と),まだ低水準であり,むしろ医療の無駄をなくす事に重点をおくべきと考えます.この点,政府・厚生省の対応は,不充分と思われます.国民医療費を圧迫する要因として長く指摘されている@老人医療費A薬剤費B医師の過剰の問題に対して,実効のあがる方針はなお打ち出されていない.老人医療費は,平成7年度には,8兆円に達し,国民医療費の31.5%を占めています.国民医療費の赤字の元凶は,高齢者医療であり,とりわけ入院問題と思われます.老人の社会的入院を減らし,医療費の効率化をはかり,コストダウンを図らねばなりません.在宅医療の推進,在宅・施設サービスの充実,療養型病床群の整備等の基盤整備がなお必要であります.老人保険制度は,社会的インフラの不備など政治上の問題とも関わっており,公的資金の投入も必要と思われます.
 なお国民医療費の3割を占める薬剤費には,大幅な削減が必要と思われます.世界一高価格の薬価,儲け過ぎの製薬会社,それを許す政府・厚生省の体質など,問題は多いようです.薬価を下げる事で,かなりの医療費削減は,可能であり無駄をなくす事は出来ると思われます.
 次に医師数の問題であります.昭和58年に人口10万人あたり医師150人を確保する増員計画は達成され,昭和59年には,入学定員の最低10%を削減すべきとの通達が出ていましたが,削減率は平成9年度は,7.8%にとどまっています.
 今後の医師過剰状態は,医師の失業,雇用不安を招くだけでなく,医療費を押し上げる大きな要因となるだけに,実効のあがる対策が必要と思われます.
 今回の医療法改正で,政治が我々の医療にどれほど深刻な影響を及ぼすか明らかになりました. 医療の無駄をなくす努力もせず,患者にだけ負担を強いる行政とは,いかがなものでしょうか.患者負担増で,医療費抑制を狙う政策は,患者の健康を守り,良質な医療を提供しようとする医師の立場として,容認できるものではありません.
 今後,本格的な高齢化社会をむかえ,医療財政を支えるため,社会保障費として,税金の投入も必要と思われます.そして歳出をけずるため,政府・厚生省は,まず医療費の無駄をなくす事に重点を置くべきと考えます.
 今後さらなる医療への管理・締め付けが予想されます.医師会も一致団結して,いかなる医療制度が,わが国に適しているか,主張すべきと考えます.