これでいいのか?介護保険―連携の実現に向けて―
大刀洗町 柳 純二

  早いもので介護保険制度が始まり既に1年半近くが経過しました.本制度が当初の目的にかなっ た内容で運営されているかどうかをそろそろ検証する時期にきているようです.「これでいいの か? 介護保険」というテーマを指定された編集委員の方の御意向もそのあたりにあるのでしょ う.昨年の11月号でも「スタートした介護保険」 というテーマで拙稿を掲載させて頂きました.その時にもいろんな問題点があることを述べましたが,現在でも多くの問題点を含みながら運営されているというのが介護保険事業の実態だと思っています.地区医師会の担当理事の立場で,また在宅ケアを行っている一医師として,それらの問題点の中で今回は特に「連携」についての所感を述べさせて頂きます.
 介護保険制度は,@利用者本位,自らの選択による介護サービスの利用,A医療系,福祉系が連携したチームケア,B医療保険を含めた保険制度の再編成(社会的入院是正など)などがその基本理念であると理解しています.
 まず何よりも利用者本位であることは本制度で最も重要な点であろうと思います.しかし我が国ではこれまで長い間,与えられる医療サービス,与えられる福祉サービスが行われてきました.そのような制度に慣れ親しんできた利用者にとっては,急に自分でサービスを選びなさいと言われてもそう簡単にできるものではありません.そこを補助するのが言うまでもなく介護支援専門員の仕事です.介護支援専門員は,このような場面でその利用者に対して考えられる全てのサービスの選択肢を提示し,その中から利用者に希望するサービスを選んでもらうことになります.そこでは当然ながら,医療や福祉や保険サービスなどを含めた相当専門的な知識を基礎にした適切なアドバイスが必要になりますし,介護支援専門員の一言で介護サービスが大きく変わる可能性もあります. 従って介護保険制度のキーマンである介護支援専門員の資質を向上させることはきわめて重要なことであり,各地の保険者では介護支援専門員協議会の設置などによりその作業が進められているところです.しかしいくら介護支援専門員の資質を高めても限界があるのではないでしょうか.例えば利用者の健康状態は主治医でないと的確な判断はできませんし,リハビリのことはやはり理学療法士に聞くべきです.またその地区の介護サービス資源の最新情報が常に介護支援専門員へ提供されているかについても疑問があります.ここにチームケアという二つ日の理念が関わってきます.
 現在殆どの(言い過ぎかもしれませんが)介護支援専門員の方々は,ケアプランを立てるときにケア会議を行わず自分の知識の中で決めようとさ れています.ケア会議の必要性は,介護支援専門員自身が一番理解しているにも係わらず現実にはそれが出来ていません.それは何故でしょうか. もちろん介護支援専門員自身に最も責任があることは言うまでもありませんが,我々医療担当者を含めた周囲の関係者にも責任の一端があるのではないでしょうか.
 小郡三井医師会では「小郡三井地区介護保険研究会」という会を昨年度から立ち上げています.この会は医師会主導で運営していますが,介護保険に関わる全ての方々,即ち介護支援専門員,介護サービス事業者,医師,歯科医師,保険者である市町,広域連合を含めています.この会では介護保険におけるいろんな問題点の解決について皆で協議していますが,介護保険制度の基本理念のひとつであるチームケアの為の「連携」の実現を何よりもその目的としています.連携というと堅苦しいですが,困ったときには違う職種の方でも気楽に相談し合えるような関係者の雰囲気作りと言った方が分かり易いかもしれません.この会の中で介護支援専門員の方に「何故ケア会議が出来ないのか.」と訊ねますとと,医師に対する遠慮(医師は忙しいから,なかなか声がかけ辛い)が大きな理由の一つということが分かりました.確かに医師は多忙であり急患などで予定通りにならないこともあるかもしれませんが,「自分の患者のケア会議に出席しようとしない主治医はいない筈です.」と彼らには答えています.そしてこの会の現在の大きなテーマを「ケア会議の実施」として 具体的な方法を検討しているところです.
 先日,ある介護支援専門員の方から,私自身が普段診ている患者さんのケア会議の申し出を受けました.その時は私の診療所に介護支援専門員と介護サービス事業者の方々にお集まり頂き,昼休みの20分位をかけてケア会議を行いました.これまでにも介護支援専門員や介護サービス事業者の方との一対一の電話連絡はよく行っていましたが,関係者全てが集まって話し合うとうことは全く次元が違います.一同に会して話し合うことで最も良い結論が最短コースで決められますし,決めたことに対する関係者の十分な理解も得られます.先日のケア会議では本人や家族は出席しませんでしたが,次回は本人や家族も同席の上で行いたいと考えています.また多忙な主治医も含めてケア会議を行う方法として,先日私が行ったように主治医のいる医療機関に関係者に集まって頂き,昼休みなどを利用して少しずつ行うのも良い方法ではないかと思います.
 振り返ってみますと介護保険制度が始まる以前には,私自身も在宅ケアに係わる一人として,保健婦やホームヘルパーの方々とのケース会議はよく行っていました.それが介護保険制度が始まってからは殆ど行わなくなっています.以前は在宅ケアにかかわる人の数が限られていて,お互いに顔見知りでもあり良い人間関係ができていまし た.私もそうでしたが,以前は主治医が全体のコー ディネーターになっていたことが多かったように思います.しかしながら現在は在宅ケアに係わる人の数も格段に増え,サービスの内容も充実し, 我々医療者がその全体を把握することは困難になりつつあり,関係者が気軽に連絡し合えるような人間関係が作り辛くなっています.しかし恐らく介護保険に係わる方々は皆,お互いに連携・協力 していくことの必要性を感じておられる筈です. 介護保険制度が始まった現時点では,全体をまとめるコーディネーターとなるのは介護支援専門員でありましょうが,いきなり彼らに関係者全体を コーディネートさせるのは実際には荷が重過ぎると思います.その前に医師を含めた関係者が集まりお互いに意見を出し合って理解し合い,顔見知りになってこそスムーズな連携ができるのではないでしょうか.何らかの形でそのような会合を設けることが現在必要なことではないかと思います.
 誰が音頭を取ってその具体的な作業を始めるかですが,保険者が音頭を取って推進していくのが本来の姿かもしれませんが,実際には動きが遅いようです.あるいは福祉の方が音頭を取られても良いと思いますが,こちらも遠慮が見られます.そのような結果,我々の地域では医師会主導で「介護保険研究会」の運営という形を取り,連携を深める作業を進めています.いずれの形態でも構いませんが,どの地区においても医師がこのような 会合に積極的に参画,協力していくことが是非必要と思われます.
 保険者も福祉の方も,医師にはまだかなりの遠慮があります.医師のなかにも,まだ自分がヒエラルキー構造の頂点にいると錯覚している方がおられます.これからの主治医には,他の福祉の方たちと同様に,介護保険に係わる専門家の一人として横並びで協力し合うという姿勢が求められています.特に介護支援専門員への医療情報提供は必要不可欠なものです.介護保険制度が始まり,ややもすると医療不在で介護サービスが行われていることが散見されますが,主治医はケア会議を始めいろんな場面において医療の専門家としての意見を十分に述べ,関係者に医療の重要性を再認識させることが必要な時ではないでしょうか. (2001/8/15)