日医新執行部に望む

名取 一幸(小郡三井)

 いよいよ,小泉政権の本丸である郵政改革が,2007年を目指して動き始めました.(平成16年8月18日現在)ここ数年間で,小泉政権は,経済財政諮問会議を通じて,従来の「官僚主導」から「内閣主導」へと政策決定の流れを変えてきています.日本の構造改革に於いて,官僚体制の打破は必要だと考えます.しかし,今回の参院選挙の結果をみますと,首相就任当時の小泉フィーバーの熱気が去り,ようやく国民が,首相の丸投げ本性を冷静に判断してきている様に思えます.首相の言う「聖域なき構造改革」等の,ワンフレーズポリティクスに,いかに惑わされてきたかを実感してきています.「聖域なき構造改革」と言いながら,自公政権が崩壊する様な所には手をつけずに,マスコミを手玉にとり,あまり文句を言いそうでない所に,首相の言う「痛み」を押しつけている状態です.医療改革がその代表です.市場原理主義者による医療改革論が密室の中で行われ,混合診療の解禁や,株式会社による病院経営参入等の愚策が出されています.8月5日に,厚労省はこういった改革推進策に反論し,財務省主体の経済論理に抵抗していますが,将来どうなるか判りません.実際この原稿が読まれる時期には,「解禁」の文字が,新聞等に出ている懸念もあります.現在の制度の中で認められている混合診療は,高度先進医療と,アメニティに関わる選定療養の2つに大別されます.もし例外なく混合診療が認められる様になれば,国民皆保険制度の崩壊につながる事は必至です.国民皆保険制度は,日本が世界に誇れるシステムだと思います.「誰でも」「いつでも」「どこでも」「必要な時に」保険証1枚で,日本の医療機関で診療が受けられます.所謂,フリーアクセスです.そして,国民はこれが当り前だと思っているはずです.イギリスでは,患者さんを最初に診療する一般医と,一般医からの紹介によって患者さんの診察を行う専門医の機能が,明確に分かれています.その一般医の紹介なしには,直接,病院等に行く手はできないのです.また,病院の診察,検査も予約制で,入院もままならない事もあります.アメリカでは低所得者の為の医療保険(メディケイド)と,65歳以上の高齢者に対する老人健康保険(メディケアー)に国の補助がありますが,一般には,民間の保険プラン(HMO)に加入します.しかし,HMOの保険料が高額で加入できない人々が,数千万人いるのが現状です.これらの事からも推察できる様に,もし,この国民皆保険制度が崩壊してしまうと,医療を受けたくても受けられない人々が出てくることになります.そんな国に,この日本を変えていいのでしょうか.アメリカは今,自国の保険制度失敗の回復に苦慮しています.小泉政権は,もう1度,
しっかり考え直す時期である事を,医師会として強く主張すべきです.先達者たちが今まで築き上げてきた素晴らしい社会制度の1つである国民皆保険制度を21世紀に生きていく私達の子供達に残していく事は,私達の努めだと思います.
 次に,医師会について述べさせて頂きます.現在の医師会は,国民からは,医師の利益追求団体,自分達の既得権を守る為の団体と思われている様です.これは,今までのマスコミの報道影響も強いと思いますが,つきる所は,医師会や,私達医師会員の責任です.どうしたらその誤解をとき,本当の存在意義を理解して貰えるのでしょう.小泉首相が,国民,マスコミへ,大衆迎合主義的に訴える手段をとっている以上,私達医師会としても,1つのストラティジーとして,国民に向けて,広報のパフォーマンスが必要だと思います.いったい国民の何パーセントの人が,現在の日本の医療水準の高さを知っているのでしょうか.(日本の医療はWHOから世界第一位と認められています.)いかに今まで,私達を含めた国民が,多大な恩恵を受けてきたかをアピールできないでしょうか.医師会主催の国民参加型健康フォーラムを開催するのはどうでしょう.その中で,疾病に関してだけでなく,医療制度や,これからの医療の方向性,問題点等様々な分野にわたって,国民と話し合える場を提供したらどうでしょうか.その際に著明なニュースキャスターや,各界知識人に参加して頂くのも効果があるかもしれません.場所は東京に限らず,各県医師会別でも可能だと思います.こういった開かれた,目に見える活動においてこそ,国民の信頼を得られるのではないでしょうか.現在,毎日のニュースメディアで,医療過誤の記事を目にしない日はありません.技術面や倫理面で,自浄作用の活性化は必要な事ですが,卒後研修に於いて,接遇のスキルアップをさせる事にも,重点がおかれる事を希望します.人間と人間のふれ合いに於いて,言葉の言い回しや,表現の仕方は,非常に大切な事です.些細な事が誤解の原因になり,訴訟へと発展する事もあり得ると思います.医師会は,社会で孤立しては駄目です.国民の中にあって,国民と共に歩む医師会であるべきです.医師会員ひとりひとりが,そういった気持ちで,日々の努力を行い,これからの医師会が,国民に支持される様になる事を切望します.