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小郡三井内科医会 丸山 泉
日曜日の朝、例の喫茶店でおいしいコーヒーをゆっくり飲みたくなり、一緒に読む本を探そうと天神の書店J堂に行き最近出版された本のコーナーを見ていたら、学部の時の友人であるM君とばったり会いました。久しぶりに会うと少し恥ずかしい気がするのは不思議です。人柄ともに申し分ない脳外科医のM君とは一言二言話しただけでした。ただ、M君も僕もジーンズ、同じ事を思っているのかもしれません。
J堂のような大型書店が福岡にはいくつかありますが、広すぎて本を探して回るのにちょっと疲れます。この日もやっぱり、当然なことですが本の種類が多すぎてどうも落ち着きません。ウォーキングを兼ねて天神からけやき通りのQ書店まで移動することにしました。万歩計が確かだとすると2500〜600歩の距離だと思います。Q書店は小さな書店ですが探したい本がそろっているので重宝しているのです。
僕の好きなニューヨーク三部作の作家ポール・オースターの訳本を一冊買うことにしました。タイトルはティンブクトゥ、変な名前です。
英語表記ではTimbuktu。訳は乗りに乗っている柴田元幸。なぜこの本に目がいったかというとTimbuktuというタイトルです。三十年以上前からパソコンを使っていた僕はWindowsを仕方なく使う前、アップル社のマッキントッシュに長いことはまっていました。最初に買ったマシーンはSE30という今考えたらおもちゃみたいな機能しかなかったのですが、その当時は夢のいっぱい詰まった宝箱でした。このマッキントッシュ用のソフトにTimbuktuというのがあって使っていたのです。自分のパソコンと相手のパソコンをLANで結び双方にこのソフトを入れておくと、お互い相手のパソコンを遠隔操作することが出来るという画期的なものでした。当時もまじないみたいな変な名前だなとは思っていましたが、別に気にもなりませんでした。同じ名前の本が、しかもポール・オースターの作品だとは、おもしろいものです。その日の夕方、改めてTimbuktuについて調べてみました。もう一つはっきりしないのですが、一般的には遠く離れた最果ての伝説の町の名前として使われているようです。ところがWikipediaというネット参加型の百科事典サイトで調べてみたら西アフリカのマリに同じ名前の町Timbuktuがちゃんと存在しています。ここが長い間サハラ砂漠横断の要所であったことも知りました。
ともかく、変な名前の本を持ち、例の店に行き好みのややしぶめのコーヒー2杯とチーズケーキ1個をつまみに日曜日の2時間ばかりを楽しんだのです。
老いた飼い主ウィリーと犬のミスター・ボーンズの物語、なぜTimbuktuなのかはもう少し読み進まないと分かりません。
まだ行ったことがないのですが、テレビの旅行番組で、中国安徽省に黄山と書いてホアンシャンと発音する世界遺産の観光地があることを知りました。中国の十大名勝地に指定されているそうです。奇岩や、自生する奇松や雲海は水墨画にもよく描かれています。
明朝の旅行家徐霞客が「五岳帰来不看山、黄山帰来不看岳」、「五岳から帰って山を見ず、黄山から帰って岳を見ない」という言葉を残しています。何度訪れても尽きぬ黄山の美しさが想像できます。安徽省の省都は合肥で、確か久留米市と姉妹都市を結んでいるはずです。その広さから500里黄山とも言われています。1992年に世界の文化と自然遺産に登録されました。唐代の有名な詩人李白は、何度も訪れその詩の中で黄山にふれています。
特にもっとも素晴らしい景観を持つと言われる「夢筆生花」を訪れては多くの名詩を残しました。
さて、巨大奇岩の山々が数十キロに連なる黄山には古来から人々がいろいろな名前を付けています。その一つに「石猿観海」つまり、「海を見る鏡」と名付けられた奇岩があります。長い年月の間の風雨による侵食で四方に絶壁を持ち天に向かってそそり立つ巨大な岩山の頂上に、一匹の猿がまるで遠くの峰峰を眺めているのです。極楽浄土を探している訳ではありません。見果てぬ地Timbuktuに憧れている訳でもありません。ただ、海を見ている孤高の猿。到底見えない海を眺めている猿。見えないからこそ真の海がそこにあるのでしょうか。
そうそう、「Timbuktu」と言えば、日曜日の研修会の往復の時間を使って読んでしまいました。 ポール・オースターの小説、犬とろくでもない飼い主の物語Timbuktuでは、飼い主ウィリーが先立ってしまった後、一人ぼっちになったぱっとしない犬のミスター・ボーンズが凄まじい交通量のハイウェイを横切ろうとするところで終わります。
ひょっとしたら、ドライバーのうちの一人が車を止めて自分を助けてくれ新しい飼い主になるのかもしれない。最後にこう言ってミスター・ボーンズはハイウェイに飛び込みます。「そうでないなら、あわよくば、日暮れ前にウィリーの元に行けるだろう。」
見えるはずのない海を見続ける猿も結構。人生をゲームに賭ける犬も結構。
さて、僕は何を・・・・・。M君はどうなのかなあ。
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