- AIは医者の仕事を奪うのか
- 投稿者:聖和記念病院・内科 藤本 優
最近のAI(人工知能)の進歩には驚かされることばかりです。質問をすれば、まるで物知りな人間と話しているように答えてくれる。文章を書いたり、難しい情報を整理したりすることもできる。医療の世界でも、病気を見つけたり、検査結果を分析したりする仕事にAIが使われてきていますし、私自身もよく参考にしています。まだその答えを鵜呑みにはできないレベルではありますが。
将来、医師の仕事のかなりの部分がAIに代替される可能性があると思っています。「医師は人間だからこそできる仕事がある」と言いたくなりますが、それはポジショントークというやつでしょう。病気を診断し、治療法を選び、薬を処方する。こうした仕事の多くは、知識と情報をもとに判断する仕事でもある。AIが人間以上の知識を持ち、より正確な判断をするようになれば、医師が今と同じ仕事を続ける理由は少なくなっていくのかもしれません。
ただ、医療という仕事をやってきて痛感するのは、結局、患者さんも家族も「人間」であるということなのです。病院には、はっきりした病気がある人ばかりが来るわけではないのです。
「何となく体調が悪い」「最近、よく眠れない」「何か悪い病気ではないかと心配になる」。検査をしても、すぐには原因が見つからないことがある。医学的には大きな問題がなくても、本人は本当に困っている。とりあえず医師に話を聞いてもらい、異常がないと確認できただけで、ほっとして帰る人もいる。
こうした不安を、AIはどこまで解消できるのだろうか。
AIに症状を説明すれば、考えられる病気をイヤになるほど教えてくれます。夜中でも、休日でも、気兼ねなく相談できますし、病院に行く手間も、待ち時間も、人間相手に説明する面倒くささもない。病院が遠い地方に住む人にとっては、心強い存在になるでしょう。
一方で、AIの回答を読んで余計に不安になる人もいますよね。考えられる病気をいくつも並べられれば、その中の重大な病気ばかりが気になってしまう。
本人が何を不安に思っているのか、自分でもよくわかっていない場合も多いのです。体の具合が悪いのか、仕事や家族のことで悩んでいるのか、将来が心配なのか。話しているうちに、初めて自分の気持ちに気づくこともある。こうした問題は、検査や薬だけでは解決しない。
高齢者の一人暮らしも、少子化が進む日本では避けられない。体調が悪くなったときに相談できる人がいない。転んで動けなくなっても、すぐには気づいてもらえない。病気そのものよりも、何かあったときに助けてくれる人がいないことが不安だという人もいるはずです。他人に頼ることが苦手だったり、認知機能の衰えで、自分でも問題の存在を見失ってしまったりする人もいます。
AIが毎日話し相手になり、体調の変化に気づき、必要なときに医療機関へつないでくれる。そんな未来は十分に考えられます。人手不足が深刻になる地域では、AIが高齢者の暮らしを支える大切な役割を担うことになるかもしれません。
テクノロジー、といえばなんだか大仰ですが、薬を飲み忘れてしまう人は、毎日その時間にアラームを設定しておくだけで、「自分で覚えようとする」よりも忘れるリスクは減るはずです。
人間の医師に残される仕事は何だろう。
私は、医師がすべての仕事を自分で抱え込む必要はないと思っています。病気の診断や情報の整理をAIに任せられるなら、任せればいい。AIのほうが正確に判断できることまで、人間が担当し続ける必要はありません。その代わり、人間にしかできないことがあるとすれば、それは患者さんの生活や気持ちを知り、周囲の人々と協力して、その人が安心して暮らせる方法を考えることではないだろうか。
AI的には「不合理な選択」であっても、人間のワガママや事情を尊重し、うまく折り合いをつけていくのが人間の医師や医療関係者の仕事になりそうです。
もっとも、こうした仕事まで、いつかAIが担うようになる可能性はあります。だからこそ、「人間にしかできない」と最初から決めつけるつもりもありません。人間よりもAI相手のほうが相談しやすいことだって、ありますよね。
大切なのは、人間とAIのどちらが優れているかを競うことではなく、それぞれの得意なことを生かし、足りないところを補い合うことだと思います。そして、技術がどれほど進歩しても、病気や不安を抱えた人が取り残されない仕組みをつくっていくことです。
AIが医者の仕事を奪うのか。その問いよりも、AIが当たり前になった時代に、私たちは誰かの不安をどう受け止め、支えていくのか。医療の目的は「人間がなるべく幸せに生きること」であって、病気の治療は、そのひとつの手段でしかありません。ただ、自分の身体や心が自分でコントロールできなくなるのは、「幸せから遠ざかること」だとは思います。
自分にとって何が幸せなのか、これって、医者にも、AIにも決められない。本人ですら、わからない(考えていない)ことが多いのです。
それもまた、「人間らしさ」なのかもしれません。
AIからすれば、「みんなもっと合理的に行動してくれよ」なんでしょうけどね。
令和8年11月
