一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 高血圧の基準が変更されたって本当?
  • 投稿者:とみた内科循環器内科 院長 富田 英春

 最近患者さんからときどき、「先生、高血圧の基準って変更されたのですか?160mmHgまではいいって聞きましたけど」などと質問を受けることがあります。
実際、スマートフォンなどで「高血圧基準変更」などと検索すると、「高血圧の基準が変わった」といったタイトルでいくつもの記事やニュースがヒットしてきます。内容を見てみると、大半は正しい内容が書かれていますが、中には、「基準が緩くなったのに知らせない医師が多い」と医療不信を煽る内容や「血圧は160/90mmHgまでは治療は不要」誤った内容も散見されます。
 結論から先に書きますと、高血圧の診断基準は、世界的な医療ガイドラインにおいても国内においても「収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上」と定められていて、現在も変更はありません。
 今回は、どうして、このような基準変更が話題になったかについて説明致します。高血圧の基準が変更されたとの誤解が広まった背景には、協会けんぽが実施する特定健診における受診勧奨基準の改定が関係しています。具体的には、2024年4月から、特定健診での受診勧奨基準が従来の収縮期血圧140mmHg以上から160mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上から100mmHg以上に引き上げられました。この変更が「高血圧の基準が緩和された」との誤解を招き、ニュースやSNSで話題となりました。しかし、実際には高血圧の基準自体は変更されておらず、今回の改定はあくまで健診時の受診勧奨基準に関するものです。日本高血圧学会も、この誤解を解消するための声明を発表しています。
 では、どうして、協会けんぽが特定健診における受診勧奨基準を改定したのでしょうか?特定健診の受診勧奨基準の改定は、厚生労働省が策定した「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」に基づいています。 このプログラムでは、収縮期血圧が160mmHg以上、または拡張期血圧が100mmHg以上の場合に「すぐに医療機関の受診を」と推奨しています。協会けんぽや日本人間ドック学会は、この厚生労働省の基準に沿って受診勧奨基準を設定しています。
 では、厚生労働省が策定した「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」の中で、高血圧の受診勧奨基準にかかる部分をみてみましょう。

 

表1

 

表2

 

表1が2024年4月以前、表2が以降のものです。改定により内容がより細かく、複雑になっています。2024年4月以前は140/90mmHg以上が受診勧奨でしたが、2024年4月以降はどうでしょう。①すぐに医療機関の受診を推奨する血圧は160/90mmHg以上ですが、140/90mmHg以上は、②生活習慣の改善を努力した上で数値が改善しないなら医療機関の受診をとなっており、保険指導判定値未満のレベル、つまり正常値は130/85mmHg以下です。国内外の家庭血圧の基準と一致しています。改定された内容は、詳細まで見ていくと、高血圧の基準の変更がないことはかわりますが、受診勧奨基準の変更が、今回の誤解の原因と考えられます。
 我々医師が高血圧治療の指針としている「高血圧治療のガイドライン2019」において、合併症のない高血圧の患者さんが受診された際に、薬を処方してすぐに血圧を下げるべき血圧は180/110mmHgとされており、健診で高血圧を指摘された患者さんが受診された場合には、まず、白衣高血圧ないか、ホルモン異常などによる2次性高血圧がないか、食事や運動を見直すことで血圧が改善しないかなどを確認して治療方針を決定しています。
 今回の健診・保健指導プログラムの改定は、セルフケアを推奨し、あたかも医療機関の受診を抑制することを意図したかのような改定のようにも思え、高血圧の診断や治療への誤解を招いたように感じます。
 高血圧は脳卒中や心筋梗塞といった致死的な疾患の最も大きな原因となる疾患ですので、当地域にお住まいの皆様には、正しい知識をもって頂きたく、説明させて頂きました。

 
令和7年5月

PAGE TOP