一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 下肢の末梢動脈疾患について
  • 投稿者:丸山病院 仲敷 健一

 四肢(下肢の場合が多い)の動脈の狭窄や閉塞を来すような疾患を総称として末梢動脈疾患(PAD: peripheral arterial disease)と呼ばれております。

 その代表例としては、閉塞性動脈硬化症(ASO: arteriosclerosis obliterans)とBuerger(バージャー)病が挙げられ、PADの大半を占めております。閉塞性動脈硬化症の原因は、高血圧症や2型糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病と考えられており、バージャー病に関しては、明らかな基礎疾患はなく、喫煙が大きな危険因子です。発症好発年齢にも差があり、前者は生活習慣病に伴うことが多いため、50才以上の中高年で、後者は20〜40才の若い男性とされております。

 症状は、歩行を続ける際に下肢に痛みと疲労感を感じるが、数分間の休憩でその感覚は軽快し、再び歩けるようになるといういわゆる間歇性跛行が主になります。下肢の血流障害が原因となる症状ですが、腰部脊柱管狭窄症などの脊髄神経の障害でも同じような症状がみられることもあります。このような症状があり気になる場合には、一般内科でよろしいですので、是非早めに受診をお勧め致します。

 まず診断に有用な簡潔な検査としては、足関節上腕血圧比(ABI: ankle brachial pressure index)があります。この検査は、足関節の収縮期血圧/上腕動脈収縮期血圧をみています。正常値は、1.00〜1.40で、0.9以下であれば、下肢の動脈狭窄や閉塞が疑われることになります。

 下肢の動脈狭窄や閉塞が疑われたのちの機能的検査としては、皮膚血流をみる皮膚潅流圧(SPP: skin perfusion pressure)を測定したり、人体から出ている赤外線を受動的に検出するサーモグラフィーがありますが、最終的な診断は、血管造影やCTによる造影検査(CTA: computed tomography angiography )を行うことで判断することになります。造影剤を使用しない利便性の高い非侵襲的な検査として、超音波検査もあり、カラードプラ法やパルスドプラ法にて狭窄や閉塞の評価を行うこともできます。

 下肢動脈の狭窄が判明した場合、その症状が治療のうえで重要になってきます。最も有名な症状の重症度分類は、Fontaine分類です。Ⅰ度〜Ⅳ度に分かれており、Ⅰ度は症状がない場合、Ⅱ度は先ほど述べた間歇性跛行の場合、Ⅲ度は安静時においても痛みが出現する場合、Ⅳ度は足趾などに潰瘍や壊死組織を形成している場合になります。

 Ⅱ度の間歇性跛行までで生活への著しい支障がない場合には、原則としては、内科的治療で対応する場合が多いです。つまり、動脈硬化の危険因子である糖尿病・高血圧・脂質異常症の管理や、禁煙の指導、抗血小板剤などの薬物療法、運動療法が主体となります。

 日常生活に支障がみられるⅡ度の間歇性跛行やⅢ度、Ⅳ度の場合は、血行再建術の適応になります。具体的には、経皮的に行う血管内治療で狭窄あるいは閉塞部に対してバルーン拡張したのちステント留置する方法と、外科的手術による血管バイパス術を行う方法があります。

 大事なことは、早期に診断つけて、内科的治療を開始し、安静時の痛みや足趾などの潰瘍や壊死を引き起こさないことです。潰瘍や壊死が拡大すれば、余儀なく下肢切断をしなくてはならなくなる場合もあります。2型糖尿病や人工透析患者をはじめ、そのような事態になってしまった場面をこれまでも多く診て参りました。

 是非そうならないためにも、生活習慣病である糖尿病・高血圧症・脂質異常症を有している方、喫煙をしている方は特に注意が必要で、自分勝手に判断せず、かかりつけ医の先生に常に相談し、指導を受けたら真摯に守ることが一番重要であると思います。

 

令和元年9月

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