一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 白内障手術に用いる眼内レンズについて
  • 投稿者:広瀬眼科医院 廣瀬 晶一

白内障手術では超音波水晶体乳化吸引術という方法で混濁した水晶体を取り除いて人工眼内レンズを挿入します。

 

1.眼内レンズの種類                                                   白内障手術で使用する人工眼内レンズは機能の面から、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズに大きく分かれます。若いときの人間の目は、水晶体の厚さや形を変化させることによって、遠くから近くまでピントを合わせることができます。老眼になると、ピントを合わせる能力が衰えてきて、ピントを合わせづらくなり、最終的には一つの距離にしかピントが合わなくなります。眼内レンズは、若い目の水晶体のように、目の中で厚さや形を変えることができないため、白内障手術で水晶体を単焦点眼内レンズに取り替えると、老眼の状態と同じように一つの距離にしかピントが合わなくなります。それにたいして、多焦点眼内レンズは形状を工夫することにより、二つの距離(遠くと近く)にピントが合うようになっています。

 

2.単焦点眼内レンズ

一つの距離にピントを合わせる眼内レンズです。ピントを合わせたい距離を予め決めておき、手術を行います。ピントを合わせた距離以外のところは、メガネでピントを調整します。手術で挿入した眼内レンズは、若い人の水晶体のように厚くなったり薄くなったりして、ピントを調節する力がありません。そのため見る物の距離に合わせて、メガネを上手に使う必要があります。遠くをメガネ無しで見たい場合は、遠くの距離にピントの合う度数の眼内レンズを選び手術をします。手元は裸眼では見えませんので、術後に老眼鏡を作って近方にピントを合わせるようにします。近くをメガネ無しで見たい場合は、手元にピントの合う度数の眼内レンズを選び手術をします。遠くは裸眼では見えませんので、術後にメガネ(近視のメガネと同じです)を作って遠方にピントを合わせるようにします。手術を受ける前に、術後の見え方について医師とよく話し合うことが大切です。

 

3.多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズでは、外から目に入ってきた光を遠方と近方に振り分けることによって、二つの距離にピントが合うようになっています。メガネなしでおおむね遠方も近くも見えるという白内障手術です。このレンズには欠点もあります。人間のレンズ(水晶体)は、膨らんだり薄くなったり形を変えて遠くや近くにピントを合わせています。多焦点眼内レンズはレンズの形状により、眼に入ってきた光を、遠方用と近方用に振り分けます。そのため、遠方と近方の両方とも、正常よりやや少ない光で見なければならないため完全な見え方にはならずこのためにコントラスト(映像のシャープさや、微妙な濃淡)が落ちてしまいます。とくに、暗いところでくっきり感がやや落ちます。また、暗い場所でライトを見ると、光の輪やまぶしさを感じることもあります。夜間の車の運転には注意が必要です。しかし、ほとんどの場合は普段の生活においてメガネやコンタクトレンズは必要なくなるか使用する頻度を下げることができます。注意すべき点として、多焦点レンズの種類によって中距離~近距離の見え方が異なります。見えにくい距離に関してはメガネの補助が必要になる場合があります。多焦点眼内レンズの特性として、コントラストが低下しているので、メガネで矯正しても補正出来ない場合があります。また一般に、多焦点眼内レンズの見え方に慣れるまでに、手術後、しばらく時間がかかるといわれています。

 

4.眼内レンズの選択

多焦点眼内レンズは、見え方のコントラスト(映像のシャープさや、微妙な濃淡)が落ちるので多少見えにくい感じを訴える方がいらっしゃいますが、それは少々我慢してでも、白内障手術後にあまりメガネを使いたくない方、メガネを掛けたり外したりしたくない方に向いています。ただし、手術後に全員がメガネを必要としなくなるわけではありません。一方で、単焦点眼内レンズは目に入ってきた光を振り分けずに使うので、1ヶ所しかピントが合いませんが、コントラストが高い見え方になります。メガネなしで近くを見る時は多焦点眼内レンズの方がよく見えますが、単焦点眼内レンズで老眼鏡をかけた場合の方がシャープな見え方になります。メガネが1本以上必要になりますが、眼内レンズの度数ずれがあっても眼鏡を装用すればどの距離もくっきり見えるため見え方の質が大事な人(メガネをかけてでも、クッキリものを見たい人)や慣れるまで待てない人、白内障以外に眼の病気がある人(緑内障や網膜・視神経などに異常があると見え方が悪くなる)などそれらが気になる方は、単焦点眼内レンズ+メガネが良い適応と考えます。

 

5.患者様へ

・眼内レンズにはいろいろな種類があり自分の生活に合致した最適なレンズを選ぶことが大切です。どのレンズにも必ず不利な点があります。

・多焦点レンズは人によって適・不適があり適している人には最高のレンズですが、適していない人には不利益な点も多い眼内レンズです。

・メガネを装用しないことがどの程度重要か、メガネ装用に拘らないならば単焦点の方が良い場合もあります。

・手術を受ける前に、術後の見え方について医師とよく話し合うことが大切です。

 

メガネやコンタクトレンズと異なって、眼内レンズはいったん目の中に入れてしまえば簡単に取り替えることはできません。

手術の前に目の状態をきちんと調べて、ご自分のライフスタイルにあった眼内レンズを選択して下さい。

2019年9月現在多焦点眼内レンズの手術は健康保険が適応されません。

先進医療という枠組みで行われていますので、一部を患者様本人に負担して頂く必要があります。

多焦点眼内レンズは高価なレンズですが、値段が高いから良く見えるというものではりません。

手術を受けてみたけれども、どうも合わなくて、単焦点眼内レンズに入れ換えるという症例もあります。

 

令和元年10月

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