一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 今年はマイコプラズマ感染症が流行しています
  • 投稿者:白石医院 院長 白石 恒明

マイコプラズマ感染症は従来、4年周期でオリンピックのある年に流行を繰り返してきましたが、近年この傾向は崩れつつあり、1984年と1988年に大きな流行があって以降は、大きな全国流行はなく、地域流行を反映した晩秋から早春にかけての報告数の増加が認められています。近年の細菌性肺炎の減少に伴い、マイコプラズマ肺炎の肺炎全体に占める割合は高まりつつあり、小児科では頻度の高い感染症の一つです。乳幼児では不顕性あるいは軽症に経過することが多く、罹患年齢は幼児期、学童期、青年期に多く、病原体分離例で見ると7、8歳にピークがあります。特に今年は大きな流行をおこしています。

過去10年間との比較グラフ(マイコプラズマ肺炎

 マイコプラズマは、増殖可能な最小の微生物で、他の細菌と異なり細胞壁を持たないため多形態性を示し、ペニシリン、セフェムなどの細胞壁合成阻害の抗生物質には感受性がありません。肺炎マイコプラズマは熱に弱く、界面活性剤によっても失活します。感染様式は感染患者からの飛沫感染によりますが、濃厚な接触を必要とします。気道粘液への病原体の排出は初発症状発現後、2~8日でみられるとされており、潜伏期は4日~3週間で、最初の吸入菌量に依存します。
本疾患の主症状は咳漱と発熱ですが、最初は全身倦怠感、発熱と頭痛で始まることが多数です。咳は初発症状後3~5日くらいから始まることが多く、当初は乾性の咳ですが、経過に従い咳は徐々に強くなり、解熱後も長く続きます(3~4週間)。特に年長児や青年では後期には湿性の咳となることが多く、また小児では喘鳴を認めることが多いとされています(約40%)。通常の鼻風邪症状はマイコプラズマ肺炎では多くないとされていますが、症状については罹患年齢によってかなり差違があり、幼児では鼻風邪症状がみられることはまれではないとされています。小児ではその他に嗄声、耳痛、咽頭痛、胃腸症状、胸痛が約25%でみられると報告されています。しかしながら、肺炎にしては元気で、一般状態も悪くないと言うことがこの疾患の特徴であると考えらます。合併症としては、中耳炎、発疹、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎などがあります。
一般的にはマイコプラズマ肺炎の臨床像は比較的軽微で予後良好の経過をとることが多いですが、近年研究が進むにつれマイコプラズマ肺炎にも呼吸不全などを呈する重症、劇症例もみられることが判明し、このような症例は年齢的にも小児領域より成人、高齢者に多くみられています。マイコプラズマ肺炎の中で重症肺炎の頻度は3~4%との報告もありますが、その発生率はかなり低いと思われます。
私たちが報告した成績では、年齢別にみると20~49歳の層が最も多く、マイコプラズマ感染が少ないとされる70歳以上の高齢者にも13%にみられました。逆に19歳以下は4%のみでした。一般に小児はマイコプラズマに感染しても軽症ですむとされ、年齢が高くなるにつれて肺炎を起こしやすくなり、成人になると重症例に陥るケースが増えるといわれますが、これらの成績はある程度裏付けるものと思われます。 臨床像としては、受診時発熱が全例に認められ、咳嗽97%、呼吸困難83%と、発症時に呼吸困難を高率に認めることが特徴的でした。一方、胸部X線所見、胸部CT所見による性状は、全肺野に均等に粒状、小結節、索状陰影などを呈する間質性パターンが31例(67%)、広範囲に強い浸潤影を呈し、肺胞性パターンを認めたもの10例(21%)、両者の混在した混合性パターン5例(12%)でした。初発症状から呼吸不全発現時までの平均日数と発現時のX線所見のパターンを比較してみると、間質性パターン11.3日、肺胞性パターン9.0日、混合性パターン12.8日で、肺胞性パターンを主体としたものがやや早く発症する傾向にありました。呼吸困難が遷延化するようなタイプのマイコプラズマ感染症には注意が必要です。

平成23年12月

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