一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 高齢者の健康と医療
  • 投稿者:本間病院 副院長 本松 利治

1.はじめに
 多くの国で人の寿命は延びていますが、日本では社会の少子高齢化の進行がとくに速いために、医療や介護をはじめ色々な見直しが進められています。この機会に高齢者の健康と医療の話題をいくつかお話ししましょう。
 まず、日本の人口の推移を総務省の人口問題研究所の資料で見てみます。日本の総人口は、2007年以降減り続け、2030年の1億1.662万人を経て、2040年に9,913万人、2060年には8.674万人へ減少します。65歳以上の高齢人口は、2010年の2.948万人、団塊の世代と第2次ベビーブーム世代が高齢になった後の2042年に3.878万人とピークを迎え、その後は減少に転じ2060年には3.464万人となるようです。高齢化率(高齢人口の総人口に対する割合)は、2010年の23.0%から、2013年には25.1%と4人に一人を上回り、50年後の2060年には39.9%と2.5人に一人が65歳以上となると見込まれています。わたしには、50年後の高齢化社会の様子はイメージできません。
 高齢化社会の影響を医療面からみると、日本の総人口が2007年以降減り続けているにもかかわらず、高齢人口の増加により、入院患者数は増え続けると予測されています。増え続ける医療費や介護費を抑制するために、今春は医療費と介護費の同時改正が行われました。将来の日本社会と子供たちを守るためにも、私たち日本の高齢者は、元気で健康な生活を目指さなければいけませんね。そこで高齢者が元気で明るい生活と余生を全うできるように、お役にたつ最近の話題を紹介しましょう。
 因みに、医療保険制度の年齢区分では、現役世代(15~64歳)、前期高齢者(65~74歳)、後期高齢者(75歳以上)、後期高齢者のうちの85歳以上を超高齢者と言います。

 

2.高齢者の健康と病気の特徴
 まず高齢者の健康上の特徴について説明しましょう。高齢者は複数の病気を持つことが多く(多病)、健康上の個人差が大きいこと(多様性)が特徴です。生活習慣病など複数の病気を持つ人から元気で活躍している人までいます。そのために、高齢者は複数の医療機関から重複した医療を受ける機会が多くなり、注意が必要です。患者さんの全体を診て貰える何でも相談できる“かかりつ医”や“かかりつけ薬局”がいると安心ですね。
 医学用語の “フレイル”は、加齢とともに心身の活力が低下してくる状態を言います。下記の老年症候群の症状も出やすく、介護が必要になりやすい状態です。また、“サルコペニア”とは、加齢に伴い筋肉量が減少し筋力や身体機能が低下する状態を言います。加齢や低栄養や色々な病気が原因になります。
 また、せん妄やうつ症状、嚥下障害、脱水、低栄養、転倒、尿失禁、便秘などの高齢者によく見られる諸症状を“老年症候群”と呼びます。高齢者は体力と予備力に乏しく、一過性の病気や老年症候群の諸症状で日常生活の機能低下を来しやすいことも特徴です。
 高齢者の病気は慢性疾患が多く加齢現象でもあるため、治癒を期待できないことも特徴です。高齢者では、治癒を目指した性急な治療よりも、症状を緩和し病気と仲良く今の時間を大切にする方が大切な場合もあります。
 高齢者は生活の場や医療や介護を受ける場が変わると、精神症状や老年症候群などを生じやすい特徴もありますので注意が必要ですね。
 また、日本では結核は減少していますが、結核患者の2/3が65歳以上と高齢者の結核が増えています。結核は感染する病気です。咳や痰や発熱が2週間以上続くときは診察を受けましょう。

 

3.高齢者の医療
(1)フレイルやサルコペニアの治療
 フレイルやサルコペニアは、放っておくと要介護状態になる危険性がありますが、適切な生活や治療により生活機能の向上が可能です。生活習慣病の合併も多く合併症の管理も必要ですが、栄養療法と運動療法を組み合わせることが大切です。食事や栄養管理は、65歳以下では肥満などの過剰栄養対策が中心ですが、75歳以上では意図せずに体重減少があれば十分な栄養とくに蛋白質の摂取が必要です。

(2)高齢者の薬物治療
 高齢者は、薬物治療で副作用などの有害事象が起こりやすく注意が必要です。その二大要因は薬物過敏性の増加と多剤服用で、6剤以上の多剤併用で副作用が増えると言われます。また、薬物の副作用が老年症候群の症状として現れることもあり、気を付けましょう。高齢者の薬物治療は、少量から薬を開始し、慎重に効果と副作用を観察しながら漸増します。また、薬は正しく服用することが大切です。薬の数や服薬回数を少なくし一包化するなど工夫をして貰いましょう。長期間の服薬を続ける場合は、効果の確認と副作用防止のために定期的に検査を受けることも大切です。

 

4.超高齢化社会と終末期医療
 以前から日本尊厳死協会は、不治の病で死期が迫った時に、延命治療を拒否し自然死を選ぶ活動を続けています。1994年に日本学術会議は、「死と医療特別委員会」で尊厳死と医療の在り方を議論し見解を表明しました。患者の意思を尊重し、患者の人間としての尊厳をまもり、残された人生を豊かに過ごせる医療などを条件に、延命治療の中止を認めました。尊厳死とは、単なる延命治療の中止ではなく、患者の意思や自己決定や人間の尊厳を尊重した医療の選択です。
 これをきっかけに、日本でも終末期医療や尊厳死や看取りなどの議論が活発になりました。厚生労働省は「終末期医療の決定のプロセスに関するガイドライン2007」を策定し、また2018年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を作成しました。保険医療の規則の中にも看取りと終末期医療に関連した規定があります。また、日本医師会や医学会でも終末期医療の在り方が議論されています。今後、入院や在宅医療の場で、私たち各自の終末期医療に対する意思や希望を問われることが起こるでしょう。元気なうちから、自分の人生の過ごし方や終末期に受ける医療を考えておくと安心です。因みに、患者さんの意思や希望が解らない場合は、ご家族等が患者本人の代弁者になります。自分の人生の終末は自分で考える時代になってきました。

 

5.健康ブームとサプリメントの安全性
 昔から長生きと健康に良い食品は私たちの関心の的でした。最近は新聞やテレビや週刊誌まで健康食品の派手な広告が目につかない日はなく、健康食品は社会的ブームです。健康食品の広告は、効能の表現は気を引きますが曖昧で解りにくいものが多いですね。
 日本では、平成13年の保健機能食品制度の発足を契機に健康食品の販売が増え、市民の関心が強くなりました。因みに、体に良いと期待して経口摂取する商品を「健康食品」と総称し、健康食品のうちで医薬品を連想させる錠剤やカプセルや粉末などの商品を「サプリメント」と呼ぶようです。
 いまの健康食品ブームの問題は、宣伝されている効き目と副作用など安全性情報の信頼性です。医薬品などの医療関係の製品は、人に対する効果と安全性の証明が法律で厳しく義務付けされています。保健機能食品制度で承認された食品は「保健機能食品」として許可された範囲内で効能を表示できますが、その他の健康食品は効能を表示できません。
 健康食品を使用する場合は、各自の責任で効果と安全性を調べる必要があります。健康食品の効果や安全性を調べた資料は多数発刊されています。かかりつけ医の先生に相談するのもよいでしょう。

 

6.おわりに
 心身ともに健康で自立して生活できる寿命を「健康寿命」と言います。健康寿命を延ばすことは私たちの希望です。健康寿命を延ばす方法は、食事や運動など生活習慣を中心に色々な工夫が提案されています。 みなさまが、健康で自分らしい幸せな人生を全うされることを願っています。

 

平成30年7月

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