一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

梯 医院 院長 梯 龍一

  • 便秘って病気なの?~本当は怖いかもしれない便秘症の話~
  • 投稿者:梯 医院 院長 梯 龍一

 おなかが痛くて病院を受診される方の中で、特別な病気ではなく、便が出なくておなかが痛くなっていたという人がいます。 その人は便がうまく出始めたら、すぐに痛みはひいていきます。 「それは病気なのでしょうか?」というお話。
 便秘って何? 便秘症とは
 便秘は症状であり、定義としては「本来体外に排出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態」であります。 毎日食べた食事の分だけ便ができる訳ですが、それを毎日きちんとすっきり出し切ることが出来ない場合「便秘」と考えます。 「便秘」に対し「便秘症」となると、これは病名になります。 具体的には自発的な排便が週に3回未満、排便時に強くいきむ、便が硬い、残便感がある、肛門が詰まったような感じ、手で排便を介助する必要な場合などのことがあるものを「便秘症」といいます。 毎日排便がないから「便秘」というわけではなく、すっきり違和感なく排便ができていれば問題ありません。
 便秘はなぜおきるの? その1 (怖い病気がかくれているかも)
 突然の便秘、高齢者の便秘、出血を伴う場合は大腸がんの可能性があります。 糖尿病やパーキンソン病でも便秘になることが知られています。 またいろんなお薬(風邪薬、痛み止め、神経にきく薬等)でも便秘になります。 かかりつけの先生にご相談しましょう。
 便秘はなぜおきるの? その2 (シンプルに腸の動きが弱くなる)
 食べたものは胃から小腸、大腸に運ばれ、大腸で水分が抜け便が形作られます。 その一連の動きが弱くなると、便秘状態になります。 これを「弛緩性便秘」といいます。運動不足(特に入院など)でおこる便秘であり、このタイプの人は便秘解消に運動が有効になります。
 便秘はなぜおきるの? その3 (がまんしていると便秘になっちゃう)
 肛門のすぐ上の腸を直腸といいます。 直腸まで便が降りてくると通常便意を感じ、排便の行為につながります。 繰り返し便意をがまんしていると、体が便意に対し鈍感になります。(排便反射の低下) 高齢者で排便に用いる筋力が低下し便秘になるのも同じ理由で、「直腸性便秘」といいます。 腹痛はなく、便意が弱いのが特徴です。
 便秘はなぜおきるの? その4 (ストレスが原因になるかも)
 腸の動きは自律神経がうまく調節して、内容物のスムーズな輸送がおこなわれているのですが、ストレスなどで自律神経が乱れ、腸の運動が不規則になり、強い腹筋や排便困難、残便感がでてきます。 これを「けいれん性便秘」といい、過敏性腸症候群の便秘型と言われることもあります。
 便秘が体に良くないわけ
 便秘症になると、おなかが張る、おなかが痛い、排便に時間がかかる、排便時肛門が痛い、時には肛門に傷がつく等の困った症状がありますが、それだけでなく便が腸内で停滞することで、腸内環境が悪化します。 腸は免疫やアレルギーに深く関わっている臓器であり、善玉腸内細菌と悪玉腸内細菌のバランスが悪くなると、いろんな病気を発症します。 結果的に精神的影響やストレス、子供の場合は発育、発達にも影響します。
 まずは生活面の改善から (早寝、早起き、朝ご飯)
 子供の頃からの便秘症の人の多くは、大人になっても便秘症になります。 排便の習慣は子供のうちからきちんと身につける必要があります。 排便は朝食後通学、通勤前にすます事が理想です。 寝ている間は腸の動きも弱く、朝食を食べるとその刺激で少しずつ腸が動き始めます。 便意を感じた時通学、通勤で家を出てしまうと、便意をがまんする習慣ができてしまいます。 小中高生は学校では恥ずかしくて排便をできない人も多く、少しずつ便意が弱くなってきます。 そのためには朝に排便をする十分な時間的余裕が必要で、早く寝て、早く起きて、朝ご飯をしっかり食べることをお勧めします。 もし便意がなくても、トイレに行く(出なくてもトイレに座り踏ん張る)という習慣をつけましょう。
 食物せんいをとった方がいい人、いけない人
 「便秘症の人は食物せんいを多く摂りましょう」とよく言われていますが、必ずしもそうではありません。 食物せんいを摂ると便の量が増える効果があります。 しかし腸の動きが低下しているタイプの便秘では食物せんいを多く摂ることで、もともと滞っていた便の体積が増えて、便秘が悪化する場合がありますので注意が必要です。 また乳酸菌は便秘に有効です。 ヨーグルトでもヤクルトでもビオフェルミンでも腸内細菌のバランスを改善し、腸の動きを改善させます。
 浣腸は怖がらず必要に応じて
 「浣腸はくせになるからしないほうがいい」と言われたことがありますが、そんな科学的根拠はありません。 直腸まで降りているのに出ない場合は、便塊が大きく硬くなっている事があり、自力排便が難しく肛門を傷つける可能性があります。 子供でも大人でもたまっている便をまず出すことは重要であります。
 お薬の使い方
 生活習慣や食生活の改善で便秘が解消すればいいのですが、便秘症の治療として内服薬を使用する場合も多くあります。 整腸剤や漢方薬もありますが、大きく分けて便を柔らかくする「緩下剤」と、腸の運動を高める「刺激性下剤」があります。 緩下剤は便中の水分量が増え便を柔らかくし、大腸通過時間が短くなり排便を促します。 代表的な薬にマグネシウム剤があり、長期間にわたり使用しても習慣性は少なく、子供にもよく使用します。 刺激性下剤は大腸を刺激し腸管を動かして、便を肛門へと送ります。効果が分かりやすいのですが、習慣性になったり、耐性になったりして問題も言われています。
 おわりに
 便秘症は子供から大人、高齢者の方まで幅広い年齢層でみられる一般的な疾患です。50才までは圧倒的に女性が多く、高齢になると男性も増えてきて、男女とも有病率は上がります。 しかしながら原因も人それぞれで、治療法もいろいろあります。 まずはかかりつけの先生にご相談されることをおすすめします。

 

令和3年2月

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