一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 前立腺がんの新しい治療法
  • 投稿者:田中まさはるクリニック 院長 田中政治

 皆さんご存知のように前立腺がんは日本人男性の9人に一人が罹患するがんで男性のがんの第一位です。しかしながら罹患数に比べて、死亡数は少なく比較的予後の良い癌です。死亡数は第六位で転移病変のない前立腺癌の場合は予後良好です。前立腺癌の罹患数は1955年頃より徐々に増え始め2000年以降は急激に上昇し死亡数も上昇しています。年齢としては50歳以降増加し70歳代でピークとなります。

 前立腺がんの診断は、まず採血し血液PSA値でスクリーニングを行いMRIで前立腺の状態を確認し生検に進むかどうか判断します。そして必要となれば前立腺針生検でがんの有無を確認、CTでリンパ節、臓器、骨シンチや全身MRI(骨)でステージングを行います。ステージⅠ、Ⅱは局所限局がん、Ⅲは局所浸潤がん、Ⅳは転移がんとなります。

 さて、前立腺がんの診断が確定したら治療です。治療の種類は①監視療法、②手術、③放射線療法、④薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤など)⑤フォーカルテラピーがあります。

 

監視療法:

ステージⅠとⅡの一部のがんが適応です。前立腺がんは比較的予後の良い癌であり必ずしもすぐに治療開始の必要のない癌も含まれます。癌の悪性度が低い場合、PSAが10以下、生検あるいはMRIで癌のボリュームが少ない癌は定期的な経過監査中、病状進行したところで追加治療を検討します。

 

手術療法:ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術

局所限局がんが適応です。ステージⅠ、Ⅱ ステージⅢの一部で生命予後が10年以上期待できます。現在はほぼロボット支援手術が行われており入院期間は8日程度。長所としては病変が完全に摘除できる可能性が高いです。短所としては、尿失禁、性機能障害、鼡径ヘルニア、手術侵襲、手術施設により治療成績の差が大きくなります。

 

放射線療法:

ステージⅠ、Ⅱ、Ⅲいずれも適応で多くの場合ホルモン療法と併用します。

外照射療法:強度変調放射線療法(IMRT)、粒子線療法(重粒子線・陽子線など)です。

組織内照射療法:永久挿入密封小線源療法、高線量率組織内照射があります。長所としては手術をしなくてよい(低侵襲)、短所は重い合併症は治療後しばらくしてから発症することが多く膀胱直腸出血(放射線性膀胱直腸炎)、性機能障害、尿道狭窄、また放射線療法後に手術治療は困難です。

 

フォーカルテラピー:

MRI画像診断能力向上とMRI超音波画像癒合生検で前立腺がんの位置がわかるようになったことで癌の部分のみを治療することで他の治療で起こる尿失禁、勃起不全、骨粗鬆症などの重篤な合併症のない治療を行うことができるようになってきました。

ここでTULSA(Transurethral ULtra Sound Ablation of the prostate)タルサ療法 MRIガイド経尿道的超音波前立腺焼灼術です。

全身麻酔下でMRI検査を行いつつ、尿道から入れた超音波装置の熱により、前立腺組織を加熱してがん細胞を壊死させる治療です。MRIで温度測定できる機能と超音波での過熱を制御する機能を組み合わせ術前治療計画により症例に合わせた治療デザインが可能です。しかしながらMRI室を長時間独占し多職種の方々(泌尿器科医、麻酔医、放射線技師、臨床工学士、手術看護師、病棟看護師:排尿検査士、外来看護師、事務、コーディネーター)を必要とします。

 

まとめとすれば

・MRIでリアルタイムに温度分布を観察しつつ、尿道から正確に前立腺組織を焼灼、組織壊死を起こす事ができる。

・尿失禁、勃起障害は非常に少なく、これまでの報告では治療効果も放射線療法とほぼ同等。

・適応は基本的には低リスクから中リスクの限局性前立腺癌。

・放射線療法後の症例でもTULSA追加可能で、TULSA後や手術、放射線療法、追加TULSAも可能。

・2019年にFDA認可、CEマーク取得済みですが国内の薬事未承認であり、自由診療です。

現在、北米40か所、ヨーロッパ20か所、日本では札幌北楡病院、久留米市古賀病院21の2か所で行われています。

治療が可能な方はMRI撮影が可能、全身麻酔が可能、鎮痙剤を使用できる、前立腺癌の病理診断を受けている、限局性前立腺がん、前立腺肥大症の方です。

 

タルサ治療Q&A

Q:全摘したほうが再発リスクが減るのでは

A:タルサ治療では、治療後、麻酔終了前に、即時に適切に治療できたかどうかをMRIで確認できるので再発のリスクが低減します。また、限局性前立腺がん低・中リスクの手術、放射線(重粒子線)と同等のがん抑制効果があります。

 

Q:治療に伴う痛みはありますか

A:治療は全身麻酔のもとで行うため痛みを感じることはありません。治療後、排尿時に軽い痛みがでる場合もありますが徐々に落ち着きます。

 

Q:タルサ治療後の後遺症を教えてください。

A:治療後は1ヶ月程度、一時的に排尿障害が出ることがあります。しかし、尿失禁、勃起不全といった、前立腺がんの治療後によくある後遺症は最小限です。

 

Q:日常生活にどれくらいで戻れますか。

A:治療当日に夕食(食事)や歩行が、翌日にはシャワー浴ができます。タルサ治療はメスを入れない・放射線被曝がないため体への負担が少なく、早期の社会復帰も可能です。医師と相談し、体調を見ながら仕事や趣味などに積極的にチャレンジしてください。

 

Q:再発が心配です。

A:タルサ治療のがん制御効果は、手術、放射線(重粒子線)治療と同等です。タルサ治療後1年間は1か月に1度、2年目以降は3~6か月ごとに経過観察を行います。もし再発した場合は、再度、タルサ治療の追加や手術、放射線・重粒子線治療も可能です。

 

Q:タルサ治療はどんな人に適応されますか。

A:ステージ2までの限局性前立腺がんの方が対象になります。また、放射線・重粒子線治療後の再発時もタルサ治療が適応になる場合があります。

 

Q:タルサ治療ができない場合はありますか。

A:局所進行がん、転移がある方はタルサ治療が行えません。また、MRI不適合の体内金属・機器を有する方、重度の心肺機能低下で安全に全身麻酔ができない方、前立腺内部で、がん病巣と尿道との間に高度の石灰化が存在する方も治療が行えません。

 

Q:治療費はいくらですか。

A:タルサ治療は、自由診療で医療保険の対象外になります。3泊4日の入院で費用は250万円程度ですが症状や治療追加により加算される場合があります。

前立腺がんの治療の選択肢は幸い多くあり、病状に合わせて、冷静かつ慎重に治療選択することが大切だと思われます。

 

令和7年12月

PAGE TOP