一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 大腸癌について
  • 投稿者:ながたクリニック 院長 永田 篤士

インターネットやスマートフォン、ツイッター、インスタグラムなどのSNS全盛時代で情報が簡単に手に入る今日この頃です。色々知っている様ですが、意外と知らない「大腸癌のイロハ」を簡単に説明します。患者様自身の知識として蓄えて頂ければ幸いです。


1.大腸癌の疫学

アメリカでは三番目に多い癌で,癌死の原因として肺癌に次いで第二位です。日本での死因別死亡率の第一位は悪性腫瘍(癌,肉腫)で、悪性腫瘍の中でも「死因」の一位は肺癌ですが,「死亡率の増加」で見ると大腸癌が胃癌や肝臓癌を抜いて第一位です!大腸癌死亡数で表すと,昭和25年では男女共に1900人程度でしたが、現在では年間2万人近くとなり約10倍にも増えて来ています。


2.大腸癌の危険因子

食事→脂肪や肉類の摂取が危険因子とされ重要視されていて、特に赤肉(動物性蛋白)が問題視されています。これらの摂取が発癌促進作用を持つ二次胆汁酸の生成を高め,大腸粘膜に作用して発癌誘発の原因となっています。食物繊維は一次→二次胆汁酸への変換を阻止し発癌抑制効果が認められます。

運動不足→身体活動の低下は腸自体の動きを低下させ便貯留時間が遷延し,その結果発癌物質に曝される時間が増えリスクが高くなるとされています。

飲酒,喫煙→喫煙自体にはリスクを高めると言う報告は無いのですが,アルコ-ルに関しては葉酸摂取減少と重なると直腸癌のリスクが上がるとの報告が有ります。

家族歴→大腸癌の家族歴は発癌リスクが高く,特に若年発生と家族歴との間に大きな関係が有るとされている。また乳癌罹患患者にも大腸癌が多いことも注目されています。
*家族性大腸ポリポ-ジス→放置すれば,ほぼ100%癌化
*潰瘍性大腸炎→長期罹患,コントロ-ル不良例の多くに発症。25年で30%程度に発症。

ポリ-プ→大腸癌のほとんどは腺腫性ポリ-プからの発症と言われていますが、最初の腺腫性ポリ-プのほとんどが良性です。癌化のリスクは大きさと比例し,1センチを越えると危険性が高くなります。

*adenoma-carcinoma sequence(癌-腺腫発生)
→腺腫から癌が発生すると言う考え。
*de novo cancer(新発生)
→腺腫を介さずに何らかの要因で癌が発生すると言う考え。


3.大腸癌の症状

一般に早期大腸癌の場合は自覚症状も無く経過し,人間ドックなどで発見される事が多いです。進行癌でも環周率(腸の内腔に占める腫瘍の大きさ)が25%程度なら殆ど症状は無く,50%を越えて始めて便秘や排便困難等の通過障害症状が出て来ます。
大腸左半分に癌腫が存在する場合は便通異常,腹満及び腹痛を生じやすく,S状結腸から直腸に存在すると、加えて血便の頻度も増加して来ます。
それに対して大腸右半分の場合は,腸管内容物(便)がまだ液状の事が多いために通過障害を生じ難く,原因不明の貧血や体重減少,腫瘤触知で見つかる事が多いです。
そのため,手術歴の無い高齢者の便秘、排便困難,原因不明の貧血等は要注意!!です。


4.検査,診断

大腸癌は他の消化器癌とは異なり早期発見出来れば完全治癒の可能性が高い病気です。
その為に、手軽な便潜血反応を行う事を極力お勧めします。
その他,家族性大腸ポリポージス、潰瘍性大腸炎、癌の家族歴などが有る場合は、積極的に大腸内視鏡検査をお勧めします。

*便潜血反応検査→ヒトヘモグロビン法(免疫法)が正確で、化学法は疑陽性になる可能性が高いです。
*大腸内視鏡検査→確定診断にはベストの検査方法です!
*バリウム注腸法→残便などがあると困難ですが,腫瘍の位置確認等には有用です。
*CT検査→腫瘍の局在診断,周囲への浸潤の程度,転移(実質臓器,リンパ節)の有無の検査に有用かつ,必須の検査です。他臓器転移に関しては超音波も有用です。
*CT-colonography→高齢者で全処置困難,癒着や再建で内視鏡挿入不可例に対して有用。更には三次元的に構築できスキルス癌やSMT等の評価に有用です。
*腫瘍マ-カ-検査→CEA.CA19-9等が汎用されていますが,ほとんどが進行癌でしか上昇しません。これ単独での有用性は低いですが,再発例では容易に上昇するので良い評価材料とは成ります。
最近では、尿検査で癌を見付ける方法も行われてます!
*直腸診、肛門鏡→外来でも簡易に行えますが、直腸から数センチしか診断出来ません。


5.病期分類 

病期分類は局所浸潤の度合い,リンパ転移の度合い,遠隔転移の有無で決定します。
国際的にはTNM分類ですが日本では独自の大腸癌取扱い規約で明記している。
また古典的なDukes分類を用いる医師も多いです。
(分類の詳細に関しては割愛させて頂きます。)


6.治療

他の癌同様に,治療方針は病期の段階で変化します。
主として内視鏡療法,手術療法(開腹、腹腔鏡),化学療法を組み合わせて行います。

*内視鏡治療
→主にポリ-プ,早期大腸癌(リンパ転移無,進達度は粘膜下層まで)に対して行われます。内視鏡手術ではリンパ郭清が不可能な為に、リンパ転移が無いのが絶対条件です!

*手術治療
→旧来より外科手術による癌腫切除,リンパ郭清は大腸癌の根治術の基本です。
大腸,胃癌等の管腔臓器癌は他の実質臓器癌とは異なり要易に腸閉塞,出血を生じる事が多く、更に遠隔転移も生じ易いです。その為に根治的では無く姑息的に局所切除やバイパス手術を行う事が多々有ります。
(また現在では、侵襲が少ない腹腔鏡手術も積極的に行われています。)

*基本術式

→回盲部切除術,右結腸切除術,右半結腸切除術,横行結腸切除術,左半結腸切除術,S状結腸切除術,高位又は低位前方切除術、腹会陰式直腸切断術(マイルス手術),直腸離断術(ハルトマン手術),骨盤内臓全摘出術等

*化学療法
→遠隔転移(肝,肺転移,腹膜播種)を有する進行大腸癌(ステ-ジⅣ)の5年生存率は著しく悪く,約10%程度です。この様な場合放射線療法と組み合わせた集学的治療が行われます。また切除不能な再発又は転移性大腸癌の化学療法は薬剤の進歩で著しく成績が良く化学療法未施行の生存中央値が7ヶ月なのに対して,施行例では21ヶ月と10ヶ月以上の驚異的な数値を示しています。
*5-FU/LV療法(☆)
*FOLFIRI療法(フォルフィリ)→☆+イリノテカン
*FOLFOX療法(フォルフォックス)→☆+オキサリプラチン
*FOLFOX6、XELOX、S-1、SOX、IRIS療法など、多種多様な組み合わせが有ります。

 

<追記>

現在では分子標的治療薬の一つで血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害するアバスチン(ベバシツマブ)が認可され治癒切除不能及び再発進行大腸癌の標準投与法と成り、生存中央値21ヶ月を更に最大で6ヶ月延長させた事が海外で発表されてます。
しかし,副作用として高血圧,脳出血,腸管穿孔等が報告されているので使用には十分な注意が必要とも言われてます。

 

令和2年7月

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