一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 緩和ケアについて知っていただきたいこと
  • 投稿者:嶋田病院 院長 西村 一宣

 「緩和ケア」と言う言葉を聞いたことがある方も多いと思います。日本の緩和ケアは、主にがんに対して普及発展してきました。今でも全国の多くの緩和ケアの施設は、がん疾患に対して主に活動をしています。しかし、本来の緩和ケアは、がんのみを対象としているわけではありません。今回は、緩和ケアについて簡単ですが説明をします。

 

【緩和ケアについて】

 重い病気や大きなけがをした時には、体の症状に加え、家族や生活、お仕事やご自身の人生について考えることもあると思います。緩和ケアは、体や気持ちのつらさの負担を軽くし、よりよい生活を送れるようにするためのものです。

 緩和ケアは、病気やけがに対する積極的な治療、お命の時間を延ばす治療、病気や症状をより詳しく知るための検査などと並行して提供されます。病が癒えたあとも、身体や心に問題が残る方に対応します。また患者が病にいる間にも、そして死別後にも家族が対処していけるように支援します。

 重い病気と聞いてがんを思い浮かべる方も多いと思います。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性で2人に1.3人、女性で2人に1人です。そして、がんでお亡くなりになる確率は、男性26.7%(4人に1人)女性17.8%(6人に1人)です。言いかえれば、男性の4人に3人、女性の6人に5人はがん以外の原因でお亡くなりになるということでもあります。

 

【がん × 緩和ケア】

 がんの患者さんへの緩和ケアの提供は、様々な場所でおこなわれます。がん診療を行っている病院には緩和ケアチームがあります。緩和ケア病棟は、全国に456施設あり9千床を超えています。福岡県内には36施設709床があり、東京神奈川には約1100床、大阪府は約700床ですので、福岡県には比較的多くの緩和ケア病床があります。一般診療や在宅診療をしている病医院や訪問看護にも、緩和ケアを専門的に提供する医師やスタッフがいるところがあります。

 医師や看護師をはじめとする医療者に対して、さまざまな緩和ケアの研修会が行われています。さらに一般の方々へは、講演会や教室、さまざまな媒体による啓蒙活動もあり、普及が進んできています。

 

【慢性疾患 × 緩和ケア】

 がん以外でお命にかかわるような病気には、心不全(心筋梗塞後、心筋症、弁膜症など)、慢性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、繰り返す肺炎、気管支拡張症など)、慢性肝疾患(肝炎、肝硬変など)、慢性腎臓病、認知症や脳血管疾患、神経筋疾患(ALSや脊髄小脳変性症など)などがあります。そのほかにも、生活や人生に大きな影響がある慢性疾患は数多くあります。

 この多くの方たちすべてに緩和ケアを専門とする医師やスタッフがかかわることはできません。例えば心不全は、2018年から診療報酬上の適応疾患となり、循環器にかかわる医療者が緩和ケアについて活動をしています。その他の病気についてもそれぞれの先生や医療者が、本人とその家族の体や心のつらさにこれまでも対応してきました。これからも、緩和ケアの手法がそれぞれの病気の特性に合わせて取り入れられ、本人とその家族の治療と生活をよりよく支えられるようになっていくと思います。

 

【救急ICU × 緩和ケア】

 急性疾患、救急や集中治療の現場でも緩和ケアが必要とされます。懸命に命を救う医療をしているのに、なぜ緩和ケアなのか疑問を持たれるかもしれません。

 重症の心筋梗塞や脳出血、交通事故などの不慮の事故、重傷感染症など急な経過をとる病気やケガは、まさに生命を脅かす状態です。がんや慢性疾患とちがうのは発症からの時間が短い事、場合によっては心拍呼吸が止まった状態で病院に搬送される場合もまれではないことです。その場合の本人家族の苦痛が大きいものであることは、想像に難くないでしょう。

 本人には疾病による苦痛、治療による苦痛があり、気持ちや社会的な苦痛はご家族も共に感じています。全国の施設で、救急・集中治療と緩和ケアの癒合がはかられています。

 

【ACP × 緩和ケア】

 ACPとは、アドバンスド・ケア・プランニングのことで、厚生労働省は「人生会議」と呼んで普及活動をしています。

 自分が生きていく中で「大切にしたいこと」「自分らしいとはどうゆうことか」を本人や家族、医療者やケア提供者が話し合い、それに基づき生活や医療やケアの内容を時期に応じで繰り返し話し合うことをいいます。

 自分で身の回りの事ができなくなった時や、意思表示がうまくできなくなった時の話をしますので、自然と人生の最終段階にさしかかったとき、あるいは生命の終わりが近づいたときの話題になります。より詳しく具体的に話が深くなれば、どういう治療を選択するか、生命維持や特定の医療行為の選定について話し合うことがあるでしょう。

 自分の人生を振り返り、これから先の人生で起こりうることを想定することは気持ちの負担になることがあります。緩和ケアでは、本人が大切にしていることや希望を尊重して医療やケアを提供し意思決定を支援していますので、人生会議の繰り返しとも言えます。ACPの話し合いを進めていくには緩和ケアのマインドが必要であり、ACPは緩和ケアの一部でもあります。

 

令和4年1月

 

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