一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 脂肪肝の話
  • 投稿者:古川医院 院長 古川 哲也

中年太りを気にしながら受けた検診で、コレステロール値や血糖が少し高めだったり、気にもしていなかった血圧の異常を指摘されて気が滅入った経験はありませんか?
おまけに肝機能も少し異常だということで、精査を指示され病院を受診すると、B型肝炎やC型肝炎ではなかったけれども、腹部超音波検査のモノクロ画面に映し出された自分の肝臓が真っ白で”脂肪肝ですね”ということになり、また一つ病気を宣告されすっかり落ち込んでしまったことはありませんか?
今や健診を受ける人の30%以上に脂肪肝があるともいわれていますから、そのような指摘を受けた人も少なくはないと思います。

今回はこの脂肪肝についてお話しします。

 脂肪肝というのは肝臓の細胞の中に広く脂肪が沈着した状態で、わかりやすいところではフォアグラは鵞鳥の脂肪肝ということになります。
現代人にとって脂肪肝はとてもありふれている病気ですが、本当に恐ろしいものなのでしょうか?
もちろん、あなたがかなりの左党なら、油断はできません。まず最初にやるべきことは決まっています。そんなことは診断を受けた本人が一番わかっているのかもしれませんが、減酒か断酒です。アルコールは間違いなく脂肪肝、肝炎の原因の一つで、度を超すと、肝硬変、さらには肝癌をも引き起こします。
さて、血液検査で肝機能異常を指摘され、超音波検査で脂肪肝とは言われたけれど、B型やC型といったウィルス性肝炎もない、何かの薬を常用したりアルコールもさほど飲んいない。確かに最近2kgほど体重は増えたけど、見た目はそんなに太っているわけじゃない。果たして、脂肪肝で何か問題になるのかな?と、いうことです。

 少し前までは大酒家でなければ、ほぼすべての脂肪肝はそれほど怖がる必要はない、まず悪化はしない良性のものと考えられていました。
その頃は肝硬変や肝臓癌の原因の大部分を占めるC型肝炎やB型肝炎といったウィルス性肝炎が関心の中心でした。これらの病気の研究が進む中で、どうも脂肪肝以外に明らかな原因がないのに、肝機能異常が続き思いの外肝臓が傷んでしまっているものがある。中には肝硬変、肝癌にまで至っているものさえあるようだ、ということがわかってきました。
これが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)といわれているものです。
肝機能異常を示す脂肪肝の中の一、二割程度、この進行性のNASHという病態に移行するものが含まれているのではないかという報告もあります。
確かに多くの脂肪肝は良性のものですし、日本ではNASHという病態はそれほど多くないのではないかという意見もあります。ですから脂肪肝と言われて、皆が皆、肝硬変や肝臓癌を心配することはないのですが、困ったことはいったいどの脂肪肝がNASHへ移行していくのか明確な予測は難しいということです。しかも現在の日本は急激に肥満が増えつつあり、今後このNASHが増えてくるのではないかと危惧されています。

 なぜ一部の脂肪肝だけが悪化していくのか、そのメカニズムの一部、原因になる要素の幾つかは明らかになりつつありますが、まだその詳細はよく分かっておらず、NASHを予測し見分ける診断法に未だ確実なものはありません。また脂肪肝やNASHに対する薬もいろいろ検討はされているものの、まだ十分に有効なものはないようです。
それでは脂肪肝があるひとは、やはり心配しないわけにはいかなくなってしまいますが、しかし脂肪肝を改善し病気の進行を避ける方法は比較的はっきりしています。
おなじみの食餌療法と運動療法による減量です。

 最近何かと話題のメタボリックシンドロームというものがあります。これは肥満や内臓脂肪に根ざした代謝の異常を原因として、動脈硬化性の疾患が多発するという考え方です。
そして脂肪肝、NASHは同じ病根であり、メタボリックシンドロームの肝臓での表現がこれらのものとも考えられています。つまりこれらの病気を生じる得る身体の状態は、ほかの様々な生活習慣病のリスクを内包しており、当然改善すべきものなのです。
 もしあなたが脂肪肝と言われたら、まず肥満の改善を考えましょう。一般に肥満の程度が強いほど、肝障害のリスクは高くなる傾向にありますが、日本人の場合軽度の肥満であっても、体質的にこのような問題を生じやすい傾向にあるといわれていますので、最近のちょっとした体重増加が脂肪肝や肝機能異常の原因になっている可能性も十分に考えられ、そのような場合にも減量は有効なようです。

自分が肥満なのかどうかを知る目安になるのがBODY MASS INDEX(BMI : 体重(kg)/[身長 m]2)で、正常値は20~25ですから、25を超えれば肥満ということになります。そして理想体重は(身長m)2×22で求められます。身長170cmの人の理想体重は1.7×1.7×22で約64kgということになります。

食餌療法をかいつまんで述べると、まず自分の生活の中の活動の度合いに合わせ、理想体重1㎏あたり25~30kcal程度が必要カロリーとします。食事の内容は高タンパク、低糖質、低脂肪としますが極端な偏りは逆効果ですので、あくまでバランスを考えてください。脂肪は動物性のものよりも植物性が望ましく、野菜や海草類も十分摂るようにしましょう。
寝る前に食べる習慣や間食も好ましくありません。当然、アルコールは飲み過ぎないようにしてください。
急激な減量は問題があることが多く、体重減少が一ヶ月に1~2kg程度でも効果はあるようです。

運動療法も激しい運動である必要はありません。運動は減量のためではなく、身体の環境を整えるのが目的です。”楽~ややきつい”程度の穏やかな運動を継続することが大切で、例えば一日30分程度のウォーキングを週に3~5日といった感じです。
いつも車で行く買い物を自転車を使ったり徒歩で行く、歩く時も少し早足にするといったことでも効果があります。
これらはまさにメタボリックシンドロームの対処法ということになり、脂肪肝だけではなく、糖尿病や高血圧、高脂血症といったほかの病気の予防にも有効です。

 脂肪肝自体を過度に恐れることはありませんが、そのような指摘を受けたときは、自分の生活習慣を見直し、健康について考える好い機会かもしれません。

平成19年4月

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