一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • もの忘れ?認知症?
  • 投稿者:本間病院 院長 本間 五郎

〈 はじめに 〉
 認知症とは「さまざまな原因によってもの忘れ(記憶障害)や判断力の障害などがおこり社会生活に支障をきたすこと」を言います。認知症の原因は ①脳神経細胞が減少して脳が病的に萎縮して起こるアルツハイマー病  ②脳梗塞や脳出血などの脳血管障害で発症する血管性認知症 ③その他の認知症に大別されます。以前は脳血管性認知症によるものが多かったのですが、最近はアルツハイマー病が増えてきました。

〈 もの忘れについて 〉
認知症には多くの症状がありますが、大きく2つに分けると、 ①もの忘れ、判断力の障害などを中心とした中核症状 ②さまざまな精神症状(自分で大切にしまった財布の場所を忘れて「財布を盗まれた」という、もの盗られ妄想や、夜眠らずに興奮してつじつまが合わないことを話したり、外へ飛び出そうとする夜間せん妄など)からくる周辺症状があります。

 しかし実際には、もの忘れから気付かれることが最も多いのが現状ですので、認知症のもの忘れの特徴をあげておきましょう。人は年をとるにつれ誰でもある程度もの忘れをするようになります。しかし、このような「生理的老化によるもの忘れ→いわゆる、ど忘れ」と認知症のもの忘れには違いがあります。物を収納した場所や、昨日出会った人の名前、夕食に食べた物を咄嗟(とっさ)に思い出せないことは、認知症だけではなく、老化による物忘れにもよくあることです。

しかし、認知症の場合には、物を収納した、人と出会った、食事をしたという、体験自体をすっぽり忘れてしまいます。忘れたという自覚がなく、食べてないと言い張り、再び食事を要求したり、繰り返して同じ物を買ってきたり、反復して同じ質問をすることなどがあります。また、もの忘れだけではなく、計算ができなくなったり、時間、場所、人物の見当がつかなくなるなど、生活する上で重大な支障をきたすようになります。

表に示すように忘れ方の内容や度合いが違いますので、認知症の早期発見をするためにこれらのポイントを参考にされるといいでしょう。

老化によるもの忘れ
認知症の症状
〇 体験の一部分を忘れても全体は忘れない 〇 体験の全体を忘れる
〇 物の名前を忘れることが多いが、ものごと自体は忘れない

(例) 食べた献立は忘れるが、食べた事実は忘れない。

〇 物の名前だけでなく、ものごと自体も忘れる。

(例) 食べた献立だけでなく、食べた事実まで忘れる。

〇 もの忘れを自覚している。 〇 もの忘れの自覚に乏しい。
〇 人、場所、時間に関しては、ほぼ正しく認識できる。 〇 人や場所、時間を正しく認識できにくくなる。
〇 日常の社会生活に支障はない。 〇 日常の社会生活に支障をきたすことがある。

〈 早期発見が大切な理由 〉
認知症もほかの病気と同様に早期発見が大切です。それは以下のようなメリットが考えられるからです。

① 「 治療すれば治る認知症がある 」
認知症は頭部外傷後に血がたまる硬膜下血腫や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患によって起こるホルモン異常、重症の肝臓病や腎臓病、ビタミン欠乏症などの体の病気で起こることもあります。これらの疾患によって起こる認知症は、もとの疾患をしっかりと治療することによって認知症の改善、あるいは軽快をみられる例もあります。

② 「 アルツハイマー病は薬物治療(治療薬)の効果が望める 」
原因がアルツハイマー病の場合、治療薬を使うことによって一時的に症状を改善させたり、症状の進行を遅らせることが望めます。

③ 「 本人と家族に余裕が生まれる 」
早期発見は、認知症の方とその介護者のQOL(生活の質)の向上にも役立ちます。家族は専門のスタッフに相談することにより、認知症や介護サービスについての正しい知識が得られ、病気の経過を把握できるようになり、新しい症状に振り回されることが少なくなります。家族が余裕をもってお世話することが、認知症の方の精神的安定につながることはよく知られています。

 もし、もの忘れが気になるときは精神科をはじめとした専門の病院にご相談ください。馴染みのない診療科に初めて受診することにためらいがあるなら、まず、かかりつけの医療機関や市町村の介護保険担当窓口、保健所に相談するのもひとつの方法です。

平成19年5月

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