一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • メタボリックシンドローム(代謝症候群)と運動
  • 投稿者:神代病院 伊藤 博明

はじめに
表記のカナ文字を最近の新聞、雑誌やテレビで視られることが多いと思います。何も難しい病気のことではなくて、昔からある病気ですが血圧高値、高血糖、高脂血症と内臓脂肪蓄積(腹腔内脂肪肥満)四つのうち、一つ一つは基準値の上限ぐらいの値でも、三つ以上ある時は動脈硬化が進行し脳梗塞や心筋梗塞を発症し易いため、今まではそれぞれが別の原因疾患として扱われていた疾患を、一つの症候群とするようになりました。

 

日本8学会の診断基準では
ウエスト径が男性≧85cm、女性≧90cm がベースにあり、空腹時血糖≧110、収縮期血圧≧130、又は拡張期血圧≧85、中性脂肪≧150又はHDL≦40 の3項目中2項目以上が該当すればメタボリックシンドロームとする。となっています。

G.M.Reavenが1988年にこれ等の病態を「X症候群」として指摘して以来「死の四重奏症候群」「内臓脂肪症候群」「インスリン抵抗性症候群」「マルチプルリスクファクター症候群」などと数多くの似た概念の発表がありましたが、世界的に統一されてメタボリックシンドロームと呼ばれるようになった一群の疾患のことについて説明いたします。

 

(インスリンの作用)

① インスリンは血糖を正常に保つ
② 腎のNa再吸収を促進し体液量が増加し、血圧を上昇させる
③ 交感神経を緊張させ、末梢血管抵抗が増大し血圧を上げる
④ 血管の平滑筋細胞を増殖させ血管抵抗増大し血圧を上げる
⑤ 肝臓でリポ蛋白合成を促進し、増加した遊離脂肪酸がトリグリセリド(中性脂肪)合成を促進する
⑥ 骨格筋へのブドウ糖の取り込み等の働きをします。

インスリンが体内で作られない状態の1型糖尿病と異なって、2型糖尿病ではインスリンが体内に沢山あるのに、インスリンの骨格筋での働きが悪いため、糖代謝や脂質代謝と血圧のコントロールが充分に出来ずインスリン抵抗性と言われます。

高血圧、高脂血症、糖尿病や内臓脂肪肥満は日本では生活習慣病と呼ばれますが、悪い生活習慣とは食事と間食で脂肪や砂糖を含んだ食物・飲み物をたくさん食べる、必要以上のカロリーをとる、腰から下の大きい筋肉を使う運動をしないなどがあります。安静や運動不足の状態では骨格筋の血流が少なくなり、筋へのブドウ糖やインスリンの供給が減るため、筋細胞の糖の取り込みが減少します。白人に比し日本人はインスリン値があまり高くなくてもインスリン抵抗性になるようです。

メタボリックシンドロームはアメリカ(ATPⅢ)では具体的には胴回りが大(BMI≧28)、中性脂肪高値、HDL(善玉)コレステロール低値、収縮期・拡張期血圧高値、血糖高値のうち三つがあれば該当するとされています。メタボリックシンドロームに該当する方がインスリン抵抗性を改善するには、食事の内容を考えることも大切ですが、運動を生活習慣のなかに取り入れる必要があります。

 

(メタボリックシンドロームの運動療法

厚生労働大臣が認定する運動型健康増進施設や医療法42条で病医院に認められる疾病予防運動施設などは、メタボリックシンドロームの一次予防・二次予防を対象にしますが病医院のなかに運動施設を作るところが増えてきています。

私共でも、病院内の健康増進センターで運動療法に取り組んでおりますので、一端を紹介します。まず、メタボリックシンドロームの方や生活習慣病の方はほとんどの方が四十歳以上ですし、動脈硬化が心臓を栄養している血管の冠動脈にも及んでいることがあります。早朝ジョギング中の突然死など聞くことがありますが、安全に運動をしてもらうには全身持久力をはじめ体力の測定が必要です。血液検査や肺機能検査、安静時心電図などの検査のあと全身持久力検査即ちエルゴメーター(室内でこぐ固定された自転車)を用いて運動負荷心電図検査を行い、運動時の心電図変化や安全に運動して頂く強さ(運動強度)の範囲を知り、その方の疾患に合った運動処方箋を作ります。厚労省の認めた健康運動指導士はそれを参考にして運動のプログラムを作ります。状態によっては週二回運動の方、三回以上運動したが良い方などあります。それで一クール(運動期間)を三ヶ月として運動療法の効果などを判定し、運動処方を新たにつくります。もちろん運動におみえになった日はその都度、血圧、体重を測定します。

陳旧性脳梗塞の方、80歳以上の方、血圧が高い方、糖尿病で血糖コントロールが上手くいかない方、冠動脈バイパス術後やPTCA後の方など普通のフィットネスクラブでなら断られる方が運動に来られます。場合によっては自動血圧計を付けてや心電図検査の電極を付けて監視しながら運動をしてもらう方もあります。いずれにしても一病息災の高齢者がますます増える時代ですから、疾病を招かない一次予防の運動も大切ですが、持病の悪化を防ぎ健康状態を維持する二次予防のための運動にも病医院が取り組む必要があると考えています。

平成17年7月

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