一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • ロコモティブシンドローム(ロコモティブ症候群)と運動器リハビリテーション
  • 投稿者:林整形外科クリニック 院長  林  晃一

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)とは運動器の障害のために要介護となる危険の高い状態をさす。運動器(locomotive organs)とは、身体機能を担う筋・骨格・神経系の総称であり、筋肉、腱、靭帯、骨、関節、神経、脈管系など、身体運動の関わる組織・器官の機能的連合です。
「ロコモシンドローム」、「ロコモ」と略されることもある。日本語では「運動器機能低下症候群」と訳される。「ロコモティブ」は本来、「原動力」、「強力な推進力」という意味だが、医学関係では人間の身体の首から下の骨、関節、筋肉、神経など、内臓を除いた、体の運動を司る部分をさす。内臓脂肪が蓄積して糖尿病や高血圧、高脂血症によって動脈硬化から心臓や脳血管の病気につながるメタボリックシンドロームと対になる症状といわれている。骨や関節に障害が起こり、寝たきりなど介護が必要になる危険性の高い状態をさしている。加齢だけでなく、運動不足になると踏ん張りがきかない上に骨がもろくなり、転倒による骨折が増えることが多い。座って靴下をはく人は体のバランスをとれず、踏ん張りがきかなくなりつつあることを示している。
ロコモティブシンドロームの対象となるおもな疾患としては、骨粗鬆症、変形性関節症、関節リウマチ、脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折、腰部脊柱管狭窄症などがある。これらの疾患をそのままにしておくと、将来に運動器不安定症になる危険性が高い
運動器不安定症は、高齢化でバランスをとる能力が低下し、転倒の危険性が高まったり、寝たきり、閉じこもりになりやすくなる状態。要因は上述のロコモティブシンドロームの対象となるおもな疾患で、更にこれに伴う神経障害などが挙げられる。
したがって、ロコモティブシンドロームは不安定症よりは広い概念で、高齢者特有の病気といった年齢の枠はないという。
現在、運動器不安定症は①目を開いた状態で、片脚で15秒未満しか立っていられない②いすから立ち上がって3メートル先の目印を回り、再びいすに座るテストで、11秒以上かかる―のいずれかに該当することなどで評価している。

■診断
下記の運動機能低下をきたす疾患の既往があるかまたは罹患している者で、日常生活自立度あるいは運動機能が以下に示す機能評価基準1または2に該当する者。
【運動機能低下をきたす疾患】
・ 脊椎圧迫骨折および各種脊柱変形(亀背、高度腰椎後彎・側弯など)
・ 下肢骨折(大腿骨頚部骨折など)
・ 骨粗鬆症
・ 変形性関節症(股関節、膝関節など)
・ 腰部脊柱管狭窄症
・ 脊髄障害(頚部脊髄症、脊髄損傷など)
・ 神経・筋疾患
・ 関節リウマチおよび各種関節炎
・ 下肢切断
・ 長期臥床後の運動器廃用
・ 高頻度転倒者
【機能評価基準】
1. 日常生活自立度:ランクJまたはA(要支援+要介護1,2)
2. 運動機能: 1)または2)
→ 1): 開眼片脚起立時間 15秒未満
→ 2): 3m Timed up and go test 11秒以上
一般の人にロコモ―ションチェック(ロコチェック)の提案
片足立ちで靴下がはけないか?
家のなかでつまずいたり滑ったりするか?
階段を昇るのに手すりが必要であるか?
横断歩道を青信号で渡りきれない?
15分くらい続けて歩けないか?

運動と健康
最近年配者だけではなく、若い層にまで骨や関節の衰えを見ることがある。生活様態の欧米化、とくにファーストフーズなどの外食の食生活が多くなり、子供はゲーム中心の家の遊びで外に遊ばなくなり、塾に通う子供が増えた。そのために運動不足と食生活で、いわゆる「メタボ」と「ロコモ」という現代病が増えたである。
元宇宙飛行士の毛利衛氏は招待講演で、宇宙では体を支える必要がないため筋肉や骨は非常に脆弱となる、宇宙飛行士はこれを防ぐため、エルゴメーターやゴムバンドを使って日課として運動をするが、十分でなく、長期宇宙滞在者には帰還後通常の生活に戻るためのリハビリテーションプログラムが用意されるとのことである。
人は、寿命が延びても楽しく生き生きとして活動しなければ意味がない、質の良い生活で寿命を全うは誰も望んでいることである。「ロコモ」になってしまい治療を受ける前に今から少しずつ自分の体を健康な状態に持って、骨粗しょう症や「メタボ」にならないためにも日頃から食生活の管理と運動を根気強く継続実行しましょう。
元気で長生きするために、日頃に運動することは不可欠ですが、運動には健康な運動器が必要し、運動器の健康には適切なメカニカルストレスが必須で、常に骨や関節を鍛えておく必要がある。
運動器リハビリテーションとは
基本動作能力の回復を通して実用的な日常生活における諸活動の自立を図るため、種種の運動療法、実用歩行訓練、日常生活活動訓練、物理療法、応用的動作能力、社会的適応能力の回復等を目的とした作業療法等を組み合わせて個々の症例に応じて行うことと定義される。
主な対象は骨、関節、筋、靭帯、神経等の運動器の病気にかかる患者さんである。これらの病気は風邪みたいな病気と違って、薬を処方して症状が緩和されれば、診療の一貫が終わりではなく、骨・関節の病気(例えば骨折)は症状緩和しても、体の本来の機能はうまく働いているかどうか、その本来の機能を正常に働くまで導き回復させるのは整形外科医の役目である。そのために方法としては薬物療法、物理療法、運動療法、手術療法などがあるが、この一連の方法を駆使して人間本来の基本動作の能力を回復させ、日常生活の諸活動を自立させることを運動器リハビリテーションという。
介護保険における要支援、要介護1といった軽度な要介護認定者が急増しているが、その要因は骨関節疾患、低栄養、虚弱状態などいわゆる「ロコモ」が多数を占め、これらの高齢者に対し適切な対応がなされていないことが要介護認定者急増の原因と指摘されている。
運動器に関する危険因子を早期に発見し、若年者においては将来の骨粗鬆症、変形性関節症などの予防、高齢者においては転倒による骨折、或いは加齢による骨・関節・筋肉などの運動器の退行変性による体力の衰え、寝たきりなどのため要介護状態となることを防止し、健康寿命を延伸することは運動器を専門とする整形外科医に課せられた大きな課題である。
この目標に向かって、整形外科専門医はいくつかの対策が立てられる。
Ⅰ.運動器検診
運動器が原因となる生活機能低下の予防・治療対策には、成長期から高齢期までの全年齢層での運動機能向上を図る必要がある。
成長期からスポーツ活動の活性化を図り、生涯にわたる骨密度、関節機能、筋力、運動神経の能力を保つよう努めることが重要である。近年の著しい子供の体力の低下は、将来の骨粗鬆症や変形性関節症の素地となる可能性もある。まず、学校健診で運動器を評価し、問題が見つかれば適切な対応をとる体制が必要である。
高齢者における運動器疾患は主に加齢変化による骨・関節の退行変性(変形性関節症、腰痛症)と加齢とともに進行する骨粗鬆症を基礎にして、軽微な外力で突然引き起こされる骨折(大腿骨頚部骨折、脊椎圧迫骨折)により、急激に機能低下に陥っていくものである。
具体策として65歳以上の定期的な運動器検診は①全身的な評価:年齢、血圧、脈拍数、心電図など②骨折リスク評価:骨密度測定、骨代謝マーカー測定(DPD,NTX),既存骨折の有無、転倒リスクの有無③歩行能力④バランス(片脚起立など)⑤瞬発力⑥握力⑦筋力、関節可動域と7つの検診項目が挙げられる。
運動器検診を一般の人に啓発、普及していく、整形外科専門医師と運動療法従事者などとの協力で推進していくことが重要である。
Ⅱ.運動器リハビリテーションの実施
運動器専門医による医療現場で行われることが必要である。
運動器リハビリテーションの具体的内容は
A)転倒防止対策:①転倒防止プログラムの開発
日常動作のなかで瞬間的に実施されている片足で立つというシンプルな動作を、力学的分析のもとに体系づけたのが開眼片足起立運動(ダイナミックフラミンゴ療法)である。
ダイナミックフラミンゴ運動(以下DF運動と略す)療法は、Wolffの「骨は荷重でプラスに反応する」という原理を基に、自己の体重をメカニカルストレスとして利用し、片足で起立することで両足起立時の1側大腿骨骨頭に加わる負荷の約2.75倍のメカニカルストレスを片足立位荷重側大腿骨骨頭に加え、大腿骨近位部の骨密度を骨折閾値以上に改善させ、さらにDF運動訓練により骨盤周囲筋の筋力増強と立位バランスの改善を得て転倒予防に役立てようとする一石二鳥を期待する運動(療法)である。
DF療法実施3~6か月後の二重X線骨塩定量装置(DXA)による大腿骨頸部骨密度(Neck BMDg/cm2値は60%程度の人に開始前より増加する。また老健施設や介護施設入所者を対象にDF療法を実施したRandomized Controlled Trial調査で有意にDF実施群の方が非実施群より転倒回数が少なく、DF療法は大腿骨頸部骨密度の改善と転倒予防の両面を持った大腿骨頸部骨折予防に向けての優れた運動療法と考えられる。
②基礎体力維持プログラムに転倒予防教室
運動器に関する病気の予防と撲滅を目指して、2000~2010年を「運動器の10年」と定め、国際的キャンペーンがスタートした、日本でも「運動器の10年」日本委員会が設立され、53団体が加わり運動を展開している。日本整形外科学会、日本臨床整形外科学会は毎年の10月8日を「骨と関節の日」と決め、各地で転倒予防教室を開催している。8年間の努力と経験の蓄積で分かったことは、転倒予防から骨折予防につなぐことだけでなく、運動器の健康から人間の体全体の健康にも繋がることになる。その成果(医療費の節約効果)は「メタボ」予防より勝るものと分かった。
B)介護予防のための持続的運動器リハビリテーション
介護予防・運動器リハビリテーションプログラムの開発
基礎体力維持、転倒防止運動、片脚起立訓練、腰痛予防体操、大腿四頭筋訓練、歩行訓練、関節可動域訓練、廃用筋肉訓練、その他

一般人向けのロコモにはロコモーショントレーニング(ロコトレ)の提案
(1)「開眼片脚起立運動訓練」について
できる方にはダイナミックフラミンゴ療法(阪本桂造先生考案)が基本で、片方の脚で、 左右1分間ずつ立ちます。重症の方は、机に両手をついて、片方の脚で立ちます。できるようになれば、指だけを机につくなど支えを減らしていきます。
(2)「椅子からの立ち上がりを含めたスクワット」について
できる方には通常のスクワットが基本です。5-6回繰り返し、1日3回行います。重症の方は、机に両手をついて椅子から ゆっくり立ち上がり、ゆっくり座ることを繰り返します。できるようになれば、指だけを机につくなど支えを減らしていきます.痛みがある場合は、スクワットを浅くする、机の支えのもとに行う、フォームをチェックする必要があり、 整形外科専門医を受診する必要があります.
いずれの場合も、転倒しないよう、つかまることができるような場所で行ったり、家族にいつでも支えてもらえるような状況で行います。

現在、整形外科専門医による医療現場で行われている運動器リハビリテーションプログラムは日本整形外科学会と日本臨床整形外科学会のもとで医薬品メーカと協力してWebsiteで掲載しております。ご参照ください。

腰痛体操
http://kanja.ds-pharma.jp/health/yotsu/exercise/index.html
運動器ニュース
http://www.bjdjapan.org/what/news.html
運動器よくある病気
http://www.joa.or.jp/jp/frame.asp?id1=25

平成21年3月

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