一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 狂牛病と感染症の考え方
  • 投稿者:白石医院 院長 白石 恒明

現在、狂牛病が話題になっています。狂牛病とはウシ海綿状脳症のことであり、徐々に脳の神経細胞が破壊され行動がおかしくなり、立てなくなり死んでいくウシの病気です。
この病気と同じような病気が、人間、羊などにも以前より存在します。
人ではクロイツフェルト・ヤコブ病と言います。この病気は1920年代に見つかった病気であり百万人に一人の割合で起こるまれな病気です。羊ではスクレイビー病といい二百年以上前から存在します。
これらの病気はプリオンとよばれる蛋白が原因であることが解ってきました。

 

このプリオンという蛋白は感染性蛋白粒子の略語であり人では特に脳に大量に存在します。このプリオンが異常であると病気が起こります。
いままではこれらの病気はウイルスという病原体(インフルエンザ、麻疹、風疹などもウイルスで起こる病気です。)が長くからだに潜伏しており、その中の特殊なウイルスが病気を起こすと考えられていました。このような病気をスローウイルス感染症といいます。
典型的なスローウイルス感染症としては麻疹ウイルスで起こる亞急性硬化性全脳炎、JCウイルスで起こる進行性多巣性白質脳症などがあります。

 

ところが、1982年にプリシュナーという人がクロイツフェルト・ヤコブ病、スクレイビー病は動物そのものがもつ蛋白によって動物から動物へ病気が感染するという説を提唱し、その蛋白をプリオンと名付けました。
しかし、この説はすぐには受け入れられませんでした。なぜなら、細菌、ウイルスといった微生物は生き物ですから自分で自分を増やすことができます。体内にはいった微生物が体内で増えることにより病気が起こるという考え方がうつる(感染)という概念であったからです。蛋白は自分で数を増やすことはないと考えられていたからです。

 

1986年イギリスで狂牛病のウシが発見され急速に増加、1996年イギリス政府は新しいタイプのクロイツフェルト・ヤコブ病が見いだされ、狂牛病のウシからの感染の可能性があると発表しました。狂牛病の牛肉を食べたことによる感染と判断したのです。
また、スクレイビー病羊の変異プリオン蛋白と狂牛病のウシの変異プリオン蛋白、新しいタイプのクロイツフェルト・ヤコブ病患者の変異プリオン蛋白が極めて類似の遺伝子を持っていることもわかり、同一の病気である可能性が極めて高いことがわかりました。

 

この変異プリオン蛋白は蛋白分解酵素に抵抗性を持ち減少せず増加していくこと、この変異プリオン蛋白が体内に侵入すると正常プリオン蛋白が変異し変異プリオン蛋白となることがわかってきました。
ただし、この変異には種属の壁があるようで、豚、猫、猿、ネズミでは変異プリオン蛋白を大量に体内に侵入させないと変異は起きないようです。鶏では変異は起きていません。羊から人間へ感染も確認されていません。

 

よって、狂牛病はスクレイビー病羊の肉骨粉をウシに食べさせウシの狂牛病を発生させ、狂牛病のウシを食べ新しいタイプのクロイツフェルト・ヤコブ病患者を発生させたことは、草食動物であるウシに食肉させた結果人類が作った病気であるといえます。
また、プリオン蛋白による感染という考え方はうつる病気(感染症)の考え方を根底から変えることになり、癌や原因不明の病気の原因究明に進歩をもたらすと思います。

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