一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

ときえだクリニック  院長 時枝 啓子

  • 集団検尿のお話
  • 投稿者:ときえだクリニック 院長 時枝 啓子

厳密には「病気」の話ではありませんが、予防医学においては集団検尿はとても重要な検査ですので、春の学校検尿を前にお話ししたいと思います。

なぜ早朝尿を採るのか:学校で採らずに朝一番の尿を持っていくのはどうしてだろう、面倒だなと思っている方もいらっしゃるでしょう。でもこれは、腎臓から蛋白が尿に出ていないかを調べるのに不可欠なのです。「体位性蛋白尿」といって起立姿勢を続けると出る蛋白や、運動後に出る蛋白を除外しなくてはなりません。夜間作られて膀胱にたまった尿を朝一番で調べても蛋白が出ているようであれば、そこで初めて腎炎などの存在を疑うのです。

採尿前日・当日の注意:前日は夜遅くまで過激なスポーツをするのを控える方がよいでしょう。
尿検査の前の日は入浴して特に尿の出口周辺を清潔にしておいて下さい。
ビタミンCなどを大量に摂取した後の尿では検査結果を正確に捉えられないことがありますので、ビタミンCを含む薬剤や食物を検査前に摂るのはなるべく避けましょう。
寝る前に必ず排尿します。そして、起床直後に尿を採ります。その際は出始めの尿を採らず、排尿途中の尿を採って下さい。

生理期間はどうしたらよいか:高学年以上の女子では、生理中および終了後1週間の尿に血液が混入することがあります。しかし集団検尿ですので、生理中である(または終了直後である)ことを明記して提出して下さい。1回目の検査でひっかかっても、2回目の検査で異常なければ大丈夫です。1回目と2回目の検査の間隔は、生理の周期と少しずらしてある学校が多いのですが、それでも周期が不規則な年齢層であるため、2回とも生理中の尿を提出せざるを得ないお子さんがおられます。この場合、書類を学校からもらったら、生理終了から1週間空けて、校医の先生もしくはかかりつけの先生のところで、早朝尿の検査を受けて下さい。1回で異常ないならその先の検査は必要ありません。

検査項目と陽性基準:主に3つの項目を調べています。①尿中の蛋白、②潜血反応、③尿糖です。一次検査は尿の試験紙でふるい分けをします。どの項目も(±)から(+++)までに分類されます。
①と②は(+)以上で陽性とし、③は(±)以上で陽性としています。
一次検査で陽性だった尿は二次検査に回り、そこでは尿を顕微鏡で詳しく検査します。また蛋白と糖はその量まで測定します。
二次検査までの結果がそろったら、医師会内の腎臓検診班で判定し、その結果を夏休みに入るまでに学校にお渡しします。検査の結果、早期治療を必要とする例があれば、緊急に学校に連絡することもあります。尿糖の陽性者は、三次検尿を受けずに直接四次精密検査に行くよう勧められます。

学校検尿の歴史と意義:日本では1974年から学校腎臓病検診が始まりました。
腎臓の病気は自覚症状が乏しいものが多く、気がついた時には病状がかなり進行していたという例もあります。集団検尿システムのない諸外国に比べて、日本では、自覚症状がない腎臓病の初期を拾い上げることが可能ですし、それが早期治療にも結びつきます。
腎臓の病気の中には、放っておくと最終的に腎不全(腎臓の働きがなくなること)に陥るものがあります。薬物治療を受け、運動制限や食事制限をしていても、人工透析を免れなくなってきます。学校検尿は、こういう腎不全に陥る子どもを一人でも減らそうという目的で始まったのです。
近年は、生活習慣病としての小児の糖尿病が注目を集めるようになりました。糖尿病も腎症から腎不全になりうる、軽視できない疾患ですので、陽性基準を厳しくしているのです。

精密検査の正しい受け方:三次検尿を勧められた方は、なるべく校医の先生か近くのかかりつけ医の先生のところで検尿を受けましょう。夏休みの帰省先の病院に1回だけ受診して提出する方がいますが、医師会管轄外の地域と当地域では、検尿システムが同じとは限りません。また、三次検尿は3回あるのですが、連日ではなく数日空けて3回受けることになっていますし、特に夏季は尿を検査に提出するまでの温度が上がりやすいため、お近くにかかることをお勧めします。
三次を通り越して四次精密検査をしていただく病院(久留米大学医療センターなど)に直行する方が少なくありませんが、これはスクリーニング検査であり、三次検尿陽性が即腎臓病という訳ではありませんので、病院の負担を軽減するためにも、指示通りの受診を心がけていただきたいと考えます。
逆に、尿糖陽性で四次精密検診を指示されているのに指定医療機関に行かない方がいます。生活指導などをきめ細かくしていただくためにも、小児科の専門医がいる指定医療機関を受診して下さい。

既に管理中の方はどうしたらよいか:家族性の良性血尿、持続性(慢性)糸球体腎炎などの診断を受けて、年1回以上定期受診をしている方も、学校検尿は必ず提出して下さい。もし三次検尿の書類をもらったら、それをかかりつけの先生のところに持って行き、最近の検尿結果と「学校生活管理指導表」を記入してもらって下さい。

くれぐれも学校検尿の提出をお忘れなく!

 

 

 

平成24年4月

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