一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 太りすぎは危険です
  • 投稿者:かわち内科循環器科医院 院長 河内 祥温

怖い表現ですが、「死の四重奏」という言葉をご存知ですか?「肥満」、[高血圧」、「高血糖(糖尿病)」、「高脂血症」を併せ持つ状態をこう呼びます。
現在我国では高血圧の人が3300~3900万人、糖尿病が予備軍をふくめて1600万人、高脂血症では2200~2500万人の人がいると推測されています。肥満症とされる人は桁が下がって470万人とされています。

問題はこれらのうち軽症であっても、一つでも該当すれば心臓病の発症の危険が何もない人の5倍になり、二つで10倍、三つ以上あればなんと31倍にも達するということです。まさに「死の四重奏」なのです。

 

以前よりこれらの病態は必ずしもそれぞれ独立したものではなく、相互に関わりあっていることが指摘されていました。特に「肥満」から高血圧や糖尿病にいたる例が多くみられ、これらを一つの疾病として把握出来ないかと多くの研究者が努力してきましたが、脂肪の代謝やインスリン抵抗性の問題などの研究から、「メタボリック・シンドローム」という表現が支持を得て一般に使われるようになりました。
WHOや米国ではかなり前から診断基準を定めていましたが、平成17年4月に我国でも内科系の8学会が協力して、日本人にあった次の基準を採択しました。

 

メタボリック・シンドロームの診断基準
必須項目
内臓脂肪蓄積 (ウエスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上)
選択項目
(1) 高トリグリセリド(中性脂肪)血症 150mg/dl以上 かつ、または 低HDLコレステロール血症 40mg/dl以下
(2) 収縮期血圧 130mmHg以上 かつ、または 拡張期血圧 85mmHg以上
(3) 空腹時高血糖 110mg/dl以上

 

の必須項目に該当し、の(1)~(3)の内2項目以上があればメタボリック・シンドロームとします。ウエスト径は立位で軽く息をはいた状態で「へそまわり」を測定します。一番くびれた腹囲ではありません。また(1)~(3)で治療を受けている場合は項目に該当するものとします。

さて、あなたはどうですか? 推計では我国の成人男子の約2割がメタボリック・シンドロームに該当するとされています。女性は男性よりやや少ないと思われますが、それでもかなりの人数になりそうです。この人数は今後も増えて行くのではないかと危惧されています。

 

ではメタボリック・シンドロームの何が危険なのでしょうか。答えは「動脈硬化」です。心筋梗塞や脳血管障害の原因は動脈硬化ですが、メタボリック・シンドロームに該当する人はそうでない人にくらべて動脈硬化を起こしやすいのです。その詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、最近興味深い研究結果が出ています。大阪大学などの研究によると、脂肪細胞自身から「アディポネクチン」という物質が分泌されており、この物質は傷つた血管を修復する働きを持っています。ところが、この物質は正常な人に比べ、内臓脂肪の増加した人では減少していることが分かってきました。つまり内臓脂肪の増加は血管が痛みやすくなることを意味します。これに上記の(1)~(3)が加わると相乗的に動脈硬化が進むと考えられます。また内臓脂肪の蓄積はインスリンの作用にも悪影響を与え、糖尿病や高血圧を発症~悪化させると考えられています。

 

もちろんその他のいろいろな要因が絡んでいるのですが、「内臓脂肪の蓄積=肥満」がこの病態の中心となる訳です。

さて先ほどから「内臓脂肪」の増加とか蓄積という言葉を使っていますが、「肥満」には、内臓のまわりに脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」(たる型肥満、リンゴ型肥満)と、下腹部やおしり、ふとももなどの皮下に脂肪のたまる「皮下脂肪型肥満」(洋ナシ型肥満)とがあります。危険なのは「内臓脂肪型」ですが、幸いなことに内臓脂肪はつきやすい反面、燃焼するのも比較的容易で、適切な運動で減らすことが出来ます。

 

生まれつきの体質もありますから全てがこれで解決するわけではありませんが、規則的なバランスのとれた食生活、適度な運動、充分な睡眠というあたりまえの生活習慣で適正体重を維持することが必要でしょう。
食欲の秋をむかえてご注意を。

 

平成17年9月

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