一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 高齢者がより安全に使える睡眠薬について
  • 投稿者: くつろぎこころのクリニック 院長 脇元 隆次

― 不眠症治療の最近の変化 ―

眠れない、不安が強いといった症状に対して、これまでベンゾジアゼピン系の安定剤や睡眠薬が広く使われてきました。

ゾルピデム(マイスリー)やブロチゾラム(レンドルミン)、エチゾラム(デパス)などは効果を実感しやすいため、短期間の使用では有用ですが、高齢者における長期使用には注意が必要です。

 

■ ベンゾジアゼピン系薬剤の注意点

ベンゾジアゼピン系薬剤は脳全体の働きを抑える作用が強いため(GABA受容体への作用)、優れた効果が得られる一方で、次のような副作用を起こすことが知られています。
•せん妄
•記憶力や注意力の低下
•ふらつきや転倒
•日中の眠気や不穏

特に高齢の方では、夜のために使っている薬が、日中の生活の質を下げてしまうことがあります。
また、依存を形成しやすいため、連日服用しているとなかなか中止できないという問題もあります。

 

■ 不眠症治療の新しい流れ

ここ数年で不眠症治療は大きく変化しています。従来の「脳を抑えて眠らせる」薬から、覚醒を維持する物質である「オレキシン」の働きを抑えることで、より自然に近い眠りを促す薬が登場しました。

これらのオレキシン受容体拮抗薬は、
•十分な効果がある
•依存性が少ない
•翌日のふらつきや認知機能への影響が比較的少ない

といった特徴があり、高齢者でも比較的安全に使用しやすい薬とされています。
2014年にベルソムラ、2020年にデエビゴが発売され、特にデエビゴは処方量の調整がしやすいため、広く使われるようになりました。
さらに2023年にクービビック、2024年にボルズィという新しい薬が相次いで加わり、現在では国内で4種類のオレキシン受容体拮抗薬が使用可能となっています。
オレキシン受容体拮抗薬の有用性と安全性が評価されてきていることの表れといえるでしょう。

また、オレキシン受容体拮抗薬は依存性が少ないため、中止も比較的容易です。
一方で副作用として悪い夢が増えてしまう、眠気が翌日まで続くといったものがあり、あまりにひどい場合は見直しが必要です。

 

■ 睡眠薬の変更で問題行動が改善した一例

施設入所中の90歳代の女性の方に訪問診療を行うことになりました。
睡眠薬を飲んだことを忘れて何度も薬を要求したり、尿失禁が増えたりといった行動変化がみられました。
ベンゾジアゼピン系薬剤の睡眠薬を長年服用されていたため、デエビゴ2.5mgを処方して、この薬を少しずつ減らし最終的に中止するよう指示しました。
その後、薬を何度ももらいにくるという行動はなくなり、日中の行動のまとまりも改善しました。
睡眠薬の効果が翌日まで持ち越され、かえって不安定さを招いていたと考えられる例でした。

 

■睡眠薬の使用を見直してよりよい生活へ

このように不眠症治療は近年大きく変化しており、より安全性の高い治療薬が使えるようになっています。
従来の睡眠薬を長年使用していた場合、変更や中止は簡単ではないのですが、新しい睡眠薬を一度は試してみてはいかがでしょうか。

 

令和8年2月

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