一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • クスリによる肝臓障害
  • 投稿者:古川医院 院長 古川 哲也

 元来病気を治すはずのクスリであるのに、誤った服用をしたり、あるいはきちんと服用していたとしても、思いもかけず身体にいろいろな障害が起こってしまうということが希にみられます。
このような薬による障害の種類は様々ですが、肝臓障害(薬剤性肝障害)はその中でも頻度が高く、気付かないまま放置しておくと重大な結果に至ってしまうこともあるために注意が必要です。

【薬剤性肝障害とは】
 薬剤性肝障害は大まかに中毒性のものと特異体質に基づくものとに分類されます。
中毒性のものは決められた量以上の薬を服用することで個人差に関係なくすべてのひとに肝障害を生じる得るもので、例えば市販の風邪薬などにもよく使われている解熱剤のアセトアミノフェンは、もともとは安全性の高い薬ですが、一度に大量(規定用量の10~20倍以上)を服用すると高率に肝障害を引き起こします。つまり逆に考えれば、この種類の薬剤性肝障害は、きちんと服用の仕方を守りさえすれば防ぐことが可能です。

 後者(特異体質に基づくもの)には、アレルギー性のものと、代謝性のものがあり、これは薬に対する個々人の過敏性、反応性に基づき発症するため、たとえきめられたとおりに服用していたとしても予防困難なことが少なくありません。
アレルギー性のものはその薬に対して感受性のある人にのみ、ごく僅かの量であっても発症します。発症の時期は服用直後から数週間後まで様々です。発症の予測は困難ですが、他の薬でのアレルギー発症の経験や、もともとアレルギー体質を持つ方に出やすい傾向があるようで、しばしば発熱、皮疹、痒みなどの全身的なアレルギー症状を伴います。
代謝性の肝障害は、薬が体内で処理される過程における遺伝的な差違が関与した肝障害性の中間代謝物が原因となり、特定の人にだけ発現するもので、一般的に服
薬から発症までの期間はアレルギー性のものより長く、服用期間が長くなるほど、肝障害発症のリスクが増してくる傾向にあるため、薬を飲み始めてから1年以上経ってから起こってくるような例もあります。

【原因となる薬剤】
 抗生物質解熱鎮痛薬消化器用薬化学療法薬などが多く報告されています。しかしほとんどすべての薬に薬剤性肝障害の可能性はあり、一般には安全性が高いと考えられている漢方薬やサプリメントも例外ではありませんし、育毛剤などが原因になることもあります。

【薬物性肝障害の症状と経過】
 発症するまでの期間は4週間以内が70%以上、8週間以内が80%を占めますが、たった1回の内服で発症する可能性もありますし、服薬開始から数年後数年経ってから発症することもあるわけです。

 薬剤性肝障害では何の自覚症状もなく、偶然に行った血液検査で始めて指摘されるものも少なくありません。
また薬剤性肝障害に特徴的な症状があるわけではなく、たとえばアレルギー特異体質による場合は、アレルギー症状として、発症早期の発熱、発疹、関節痛などがみられますし、黄疸や全身の痒みで気づかれることもあります。またどのようなタイプであっても肝障害が進行してくると肝機能低下の症状として全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸などが現れてきます。
尿がコーラや醤油のような濃い色になったり、どうしようもなく体がだるい、食事がとれないなどの症状が現れてきたときには、かなり肝障害が進行している可能性があるため、直ちに主治医に報告し検査を受けることが必要です。

 薬剤性肝障害が起こっていることを早いうちに発見し起因薬物を中止できれば、肝機能は速やかに改善し軽症ですむことが大部分で、命に関わるよう事態に至ることはまず避けることができます。
しかし、発見が遅れ、起こっている肝障害に気づかないまま漫然と薬の服用を続けてしまい、黄疸や食欲不振など重篤な症状が出てくるまで気づかれずにいると結果的に重症肝炎になってしまう。そのような例の中には肝不全に陥るものもあり、こうなると命が脅かされ、肝移植を考慮しなければならなくなるような場合さえあります。

【薬物性肝障害を予防するために】
 過去に自分が肝障害や何らかの問題を起こしたことがある薬に関しては、原則、再度の使用は避けます。さらに単独では大丈夫であった薬でも、他の薬と一緒に飲むことで肝障害が出る場合がありますし、またお酒を多量に飲む人、肝臓や腎臓が悪い人は副作用が出やすい傾向があり注意が必要です。
いわゆるアレルギー体質の方も、あらかじめ主治医にそのことを伝えるようにしてください。

 もし肝機能障害が見つかった場合、それが薬剤によるものかどうかを判断する確定的な方法がないため、他の原因による肝障害の可能性を除外し、薬物の使用と肝障害の経過の関係から起因薬物を推測するかたちで行われるのが一般的で、もし薬の関与が否定できない場合は、直ちに服用を中止したり、薬を変更することになります。

 どんな薬でも、肝障害を引き起こす可能性があり、それを事前に予測することは困難ですから新たにお薬を飲み始めた場合は、きちんと定期的に主治医の診察や血液検査を受けることが非常に大切なのです。せっかく病気を治すために飲み始めた薬で、新たな病気を生じてしまうようなことだけは避けなければなりません。

平成22年11月

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