一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

本間病院 精神科医 井関 真知子

  • 現代の不登校の背景と家族にできること
  • 投稿者:本間病院 精神科医 井関 真知子

 本間病院の児童思春期相談室には多くの不登校の子ども達が受診します。不登校となった思春期の子ども達の多くが、勉強をする意味・学校へ行く意味を見失い、将来への不安を抱いています。片や、親はどうすればいいのかと困り果てた結果、親心から「とりあえず高校へ」「とりあえず卒業して」と無理強いしてしまいます。しかし、折悪しくこの親心を察知した子どもは不安を増大させるという悪循環を招きます。

 

 現代の不登校は右の☆のように(1)学歴価値の低下(2)学業と労働のギャップ拡大(3)学校の聖性消失により子ども達を学校へ向かわせる力が弱まった一方で、(4)学校での心理緊張の高まりにより学校生活をストレスと感じさせる力が強まっている、という背景があります。

 

 親世代の子ども時代と現代の子ども達を取り巻く環境が大きく異なっており、親世代の価値観を押し付ける事は通用しないのだと理解する必要があります。

 

 では、家族ができることは何か。
それは(1)安心して家にいられるようにすること(2)何かひとつでも家のなかで楽しいことがもてること(3)専門家とつながりを持つことです。

 

 学校を休んでいる日々は、子どもにとって辛い日々です。家族から登校しないことを非難されたり、“この先どうするんだ”と圧力をかけられると辛さが重なります。また、学校へ行かずにゲームをしたり動画をみて楽しんでいるように見える我が子の姿にイライラモヤモヤして、親はつい小言を言ってしまうでしょう。非難される事で子どもの辛さは更に重なります。そうすると家の外に踏み出す力がますます萎えてしまいます。
 けれど、現実逃避的なゲームや動画でも楽しみは必要なのです。なぜなら、楽しさは能動性を伸ばすからです。私達おとなだって、楽しいと思う事がないと日々頑張れませんよね。
 家族は、子どもが現実逃避をしなければならないほど辛い状況である事を理解し、子どもの復活する力を信じて見守ってください。“そんな自分でも家族は受け入れてくれる”という安心感が得られ、家が安全なベースキャンプになるにつれて、子どもは真の充足感が得られる楽しみを試行錯誤するようになります。そして子どものこころは、家族の外の社会的な世界へひらかれます。
 とはいえ、子どもが学校に行けず辛い日々を送っているのを見ることは親にとっても辛いことです。ベースキャンプとなる家族が安全な基地でいられるよう、我々専門家を頼ることも大切です。

 

 不況、災害、新型コロナウイルス感染等々、大人にとっても不安が絶えない世の中になっています。つまり、子ども達が明るい未来を描きにくい世の中になっているという事です。個人の力で社会を変える事は難しいけれど、おとなが自分の「家族を、“楽しむ事が保証されている「安全基地」”に変える事は可能なのではないでしょうか。自分の真の楽しみをもてるようになれば将来の展望を抱けるようになり、「安全基地」を支えに自分の道を歩み出せます。
 私は、精神科医という仕事を通してそのお手伝いができれば思っています。

 

令和2年11月

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