一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

神代病院 古栁 貴史

  • お餅に注意
  • 投稿者:神代病院 古栁 貴史

この度、令和4年3月分の「病気と健康の話」ということで依頼を受けました。「日常の診療や患者さんとそのご家族にお話ししたいこと、季節的な病気の話などを題材に」とのことでしたので、画像診断医の中ではあるあるなお話ですが、皆様に季節的なテーマで一つお伝えできればと思います。

 

今回、お話しする内容はお餅です(もし以前に同様の内容がございましたらすみません)。この原稿が載る頃にはちょっと時期が過ぎているかもしれませんが原稿を書き始めたころはお餅シーズンの真っ只中です(もしかしたら今日、明日にでも患者さんが来られるかもしれません)。

皆様は年末年始にお餅を食べられたでしょうか。私のインターネット調べでは、お餅への支出が最も多いのは(予想通りですが)12月で、この月で年間のお餅支出金額の約6割を占めるそうです(総務省統計局「家計調査通信第 491 号(平成 27 年1月 15 日)」)。お正月や鏡開きの時期に食べられるのでしょう。

お餅は大変おいしい食べ物ですが、医療の観点からは少々怖い食べ物でもあります。皆様もお餅をのどに詰まらせる悲しい事故を耳にされたことがあるかと思います。実際に事故発生月は1月に集中し、特に三が日に多いそうです。

さて、前置きが長くなりました。おいしいけれどちょっと怖いお餅ですが、のどに詰まらず無事に飲み込めればひと安心、、、ではないことがあります。実は、腸の中で詰まってしまい、食べ物が通らなくなる「腸閉塞」の原因となることがあるのです。

お餅がのどに詰まった時、そばに誰かいれば原因がお餅であるとすぐに分かります。しかしお餅が腸で詰まった時は、ご本人もまさか腸閉塞の原因になっているとは思いもよらないわけで、医療の現場でもその原因がはっきりしないことがあります。そんな時はCT検査と、我々画像診断医の出番となります。お餅のハイシーズン中に腸閉塞を疑った場合、「もしかして」と思いながらCT画像を読影しますが、拡張した腸の行先に白い塊が詰まった画像を認めたら「お餅などの食餌性の腸閉塞の可能性があります」と主治医の先生にお伝えします。その後患者さんから「今朝お餅を食べた」などの話が聞ければ腸閉塞の原因が分かることになります。

お餅はもち米のデンプンであるアミロペクチンで出来ており、溶解しにくいこと、熱を加えると柔らかくなるが冷えると固く粘着性が増すなどの特性があります。皆さんも実生活の中で感じられている通り、食べている間に冷えてくると固くてベタベタするのです。このことは、お餅の温度が高いはじめのうちは口の中を通過しやすいものの、徐々に温度が下がってくるとのどや腸で詰まりやすくなる理由となります。腸の中では管腔が狭い回腸でよく詰まるようです。

ちなみに、腸に詰まりやすい食べ物は他にも知られており、こんにゃくや海藻類、椎茸、干し柿など様々ありますが、水分で膨化するものや消化の悪いものが良くないようです。これらの腸閉塞を引き起こす食べ物の中では、お餅はCTで見つけやすい特徴があり、CT値が高い(白く見える)ため、比較的診断しやすいと思われます。

 

今回は画像診断医の立場から、比較的季節性のある話題としてお餅による腸閉塞をご紹介しました。患者さんにはお餅が腸に詰まりやすいこと、医療者の方にはCTで腸の拡張と白い塊を認めたらお餅による腸閉塞の可能性があることをお伝え出来たならば幸いです。心掛け次第で予防できる病気だと思いますので、皆様も、お餅は小さく切りよく噛んで食べましょう。

 

令和4年3月

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