一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

丸山病院 柴野 惠介

  • 男性の骨粗鬆症
  • 投稿者:丸山病院 柴野 惠介

現在40歳以上男女のうち約230万人が骨粗鬆症と推定されていますが、男性は女性と比べて平均寿命が短い、有病率が低い、骨折の頻度が少ないことなどから、男性の骨粗鬆症は今まであまり注目されていませんでした
男性の骨折が女性より少ない理由の一つととして、骨密度の違いが挙げられます。女性では、閉経時期である50歳代前半から急激に骨密度が低下するのに対し、男性では、骨密度は加齢に伴って徐々に低下していきます。
他の理由としては、骨の太さの違いも考えられます。皮質骨の外部に沈着する骨形成のスピードは男性において女性の3倍に達します。そのため、成人に達したときにはすでに皮質骨の幅が男性で明らかに大きく、高齢に達するとその差はさらに著明となります。
また、男女における筋力の差異の関わりも言われています。筋肉の引っ張り刺激は骨形成の最も大きい刺激なため、男女における明らかな筋力の差は、バランス能力の差につながり、それが転倒、そして骨折の頻度の違いに結びつくと考えられます。

このように骨粗鬆症、およびそのことに起因する骨折は閉経後女性に多いのですが、近年、男性においても骨粗鬆症とそれに伴う骨折の頻度の増加がみられます。そして男女とも骨折後の生存率が非骨折者に比して明らかに低いことが注目されています。
骨粗鬆症の方に生じやすい大腿骨頚部骨折を見てみますと、男性では毎年2万人以上の方が新たにその骨折を起すといわれ、ある報告によると、男性の大腿骨頚部骨折の予後は女性よりも一般に悪く、その死亡率は女性の約2倍にもなり、1年以内に31%が死亡し、半数以上は痛みが残るため歩行介助が必要となり、3分の1が長期療養施設に入所するとされています。そのため、男性の大腿骨頚部骨折は女性に比較して発生率が低いものの、いったん発生するとその後の日常生活動作や生活の質の低下の著しい低下を来たすことが推測されます。

しかし、このように男性の骨粗鬆症が問題になってきているにもかかわらず、男性骨粗鬆症患者の受診転機としては骨折が約70%であり、症状が出現して初めて受診する方が多いのです。その一方、女性の骨粗鬆症患者は、健診で骨密度の減少を指摘され、骨折を起す以前の無症状のうちに受診する方が多く、男性においては骨粗鬆症のスクリーニング検査がまだ普及していません
実際に骨折をきたす前に、検査を行い、骨粗鬆症であれば治療を受け、将来の骨折の発症を防止することが重要です。

骨粗鬆症に対する治療方法としては、食事療法や運動療法も大事ですが、その中心は薬物療法となります。閉経後骨粗鬆症に対して治療効果が確立しているビスフォスネート製剤と副甲状腺ホルモンは男性骨粗鬆症でも有用であるとされており、実際にアメリカでは両者は男性骨粗鬆症の治療薬として認可されています。
わが国では、副甲状腺ホルモンは現時点では市販されていないため、実際にはビスフォスネート製剤を中心として男性骨粗鬆症の治療にあたることになります。
それにもかかわらず、日本で販売されているビスフォスネート製剤の添付文書には、「男性患者での安全性および有効性は確立していない。」と記載され、病院では男性の方には処方しにくい状況です。
このようにわが国における男性骨粗鬆症に対する薬物療法の報告は少なく、治療のエビデンスは閉経後骨粗鬆症に比して十分ではありません。今後、男性骨粗鬆症患者の増加も予想されるため、早急にそれらの蓄積が期待されるところです

平成21年8月

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