一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 肩腱板断裂
  • 投稿者:福岡志恩病院 整形外科 石谷 栄一

 今回は肩疾患の中でも「腱板断裂」を取り上げてみます。

 まず肩ってどんな関節なのかを説明しましょう。肩関節はヒトの関節のなかでもっとも可動域の大きな関節です。肩甲骨の関節面と上腕骨の骨頭が関節を作りますが、骨の接触は非常に小さく“ゴルフのティーとボール”の関係にたとえられます。よく動くかわりにとても不安定な関節で「脱臼」しやすい関節なのです。肩を安定させるために筋肉・腱・靭帯といった軟部組織が骨を覆っています。腱板は骨頭をほぼ覆っており肩の安定化に重要な組織なのです。続いてはこの腱板の機能を説明します。

 「インナーマッスルをきたえると良い!」と聞いたことがありませんか?肩関節運動時に上腕骨頭が常に関節窩の中心部に位置することがとても重要なことなのです。ちょっと専門的で難しいですね。たとえばコマを回す際に軸が中心からずれているとコマは回転するとき大きくぶれますよね。傷めている肩は動作時の回転中心が大きくぶれているのです。つまり肩を動かす際の回転中心がぶれないようにすることが治療になるわけです。肩関節の深層にある筋腱を腱板というのですが、この腱板が回転中心を安定化させる役割をしているのです。腱板は肩の外側(アウター)でなく内側(インナー)にあるため、インナーマッスルと呼ばれるようになりました。腱板機能を高めてあげる訓練(インナーマッスルトレーニング)が肩関節を安定化させるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ペットボトルを使用したインナーマッスルトレーニング方法:低負荷で1分以内がポイント

 

 腱板が外傷やスポーツなどで完全に断裂しているときには手術にて修復することが重要ですし、機能低下だけならリハビリで回復させることができます。また腱板のトレーニング方法は専門のドクターまたは理学療法士などに指導してもらってください。インナー(腱板)のトレーニングのつもりでアウターにしか効いていないという人が案外多いのですよ。

 

 腱板断裂の症状・治療方法を説明します

 腱板は肩甲骨と上腕骨をつないでいる4つの筋腱から構成されています。これらが1枚の板状の腱となり肩関節を覆っています。これらの腱は誰でも加齢とともに少しずつ傷んでいきます。よって中高年の方が重いものを持ち上げたり、手を着いたりなど日常生活上の軽微な外力が加わることで断裂することが多いようです。
 断裂直後の典型的な症状は、痛みと自力で腕を挙上できなくなるというものですが、1ヶ月ほどで急性期の痛みがとれて挙上もできるようになることが多いです。ただし断裂した腱が自然につながることはなく、他の筋腱を使って代償的に動かせるようになったに過ぎません。肩より上の高さに腕をあげての動作や、力仕事、スポーツなどに際してはうまく力が入らないことがあります。また夜間痛が特徴的です。病院にかかっても五十肩として扱われていることも多く、3ヶ月以上治らないようなら専門医を受診した方がよいでしょう。

 MRI検査を行い、腱の断裂の大きさ、年齢、検査での腱の質などにより、手術方法をとるべきか、リハビリなど保存治療でよいのかを判断しています。断裂サイズは年々拡大していき、断裂した筋腱は変性・萎縮していくので適切な時期に手術をすることは日常生活をよりよいものにするために必要です。当院ではほとんどの腱板断裂の手術は関節鏡という内視鏡を用いて最小侵襲で行っています。

 

  MRI: 腱断端が引き込まれている状態      手術後、完全修復

 手術による腱の修復は痛み、筋力低下、可動域制限を改善する重要な手段です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  
  関節鏡:腱板断裂にて上腕骨頭露出      腱板修復術後

 

 以上、簡単に腱板断裂の症状・治療についてご説明しました。

 

平成30年3月

 

 

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