一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

梯医院 院長 梯 龍一

  • 腸が敏感になる病気・・・過敏性腸症候群の話
  • 投稿者:梯医院 院長 梯 龍一

 おなかが痛い、ガスでおなかが張る、下痢になった・・・よくあります「おなか」の症状ですが、病院で検査をしても何も異常所見がなく、さて原因はなんでしょう という事がよくあります。検査して異常所見があり原因が明確なものを器質的疾患といい、これに対し異常所見が見られないものを機能的疾患と呼んでいます。そして腸の代表的な機能的疾患が過敏性腸症候群であります。
 過敏性腸症候群には以前より、「下痢型」「便秘型」下痢と便秘を繰り返す「混合型」があると言われていますが、最近ガスでおなかが張る症状が主体の「ガス型」が注目されています。過敏性腸症候群の原因は、腸の運動をコントロールする自律神経の異常、消化管の知覚過敏、精神的不安・心理的異常の3つが関係しています。そして元々神経質な性格だったり、暴飲暴食やアルコールの多量摂取、肉体的精神的疲れで発症・悪化させます。
kakehasi20170401 「下痢型」は突然の腹痛から始まり、強い便意を伴い発症するもので若い男性に多く、通勤電車を降りて駅のトイレに駆け込む という典型的なケースが知られています。この「下痢型」は日常生活に支障をきたす事が多いのですが、「ガス型」も人前でおならをする訳にいかないので必死で我慢したり、ガスを出す為に何回もトイレに行かなければならない大変困る事の多い疾患であります。もしおならが臭くなくて、上手に音を出さずにおならをする事が出来たらあまり問題ないのでしょうが、過敏性腸症候群でのおならは、健康な腸より臭いと言われています。
 では何故腸にたくさんのガスがたまってしまうのでしょうか。そのガスの殆どが呑み込んだ空気であります。人は1回唾液を飲み込む時に少量の空気も一緒に飲み込んでいます。ストレスがあったり、緊張すると唾液のえん下回数が増えます。その程度が限度を超え症状が出てきますと、空気えん下症または呑気症(どんきしょう)と言います。空気を飲み込んでもうまくゲップが出ればいいのですが、空気の多くは腸に流れ込みおならの元になります。空気の飲み込みを悪化させる要因としては、早食いや汁物・麺類をすする事や炭酸飲料等があげられます。またガムをかむ事も唾液を多く出し、えん下の回数が増える事から良くありません。ただし空気を多く飲み込む事だけで「ガス型」になるわけではありません。
 過敏性腸症候群の発症にはセロトニンという神経伝達物質が関係してると言われています。強いストレスや不安があると腸のセロトニン分泌が増え、腸管の運動が乱れます。腸が敏感に反応し運動が高まると、内容物が早く移動し水分が十分に吸収されず、水分の多い状態で排出され下痢になります。腸の運動が落ちると腸内にとどまる時間が長くなり、硬く小さなコロコロとした便になります。また腸の中で部分的に運動が落ちる場所がありますと、そこに内容物やガスのたまりができます。ガスの量が多くなりすぎると腹部膨満感を感じ、腹痛を引き起こし、こういう状態を鼓腸ともいいます。過敏性腸症候群「ガス型」に対しては原因として考えられる ①ストレス対策、②空気の飲み込み対策、そして治療法として考えられる ③うまくガスを出す工夫、④薬物療法が必要になります

 

①ストレス対策  まず生活のリズムが乱れていませんでしょうか。肉体的疲れは精神的疲れにつながります。そして具体的なストレスの対象(人間関係、悩み等)がありませんでしょうか。ストレスで元気がなく気分が落ち込む様なら、場合によってはメンタルクリニックでのカウンセリングや治療も必要になります。

 

②空気の飲み込み対策  ストレス・緊張からくる空気の飲み込み対策は①と同じ部分があります。食生活では早食いをやめ、ゆっくりよくかんで少量ずつ飲み込む事が大切です。また炭酸飲料やガムは止め、汁物・麺類も食べ方に気をつけてください。

 

③うまくガスを出す方法  基本は毎朝家を出る前に、出すべき便やガスをきちんと出す事が大切です。その為には早寝早起きの習慣をつけ、きちんと朝食をとり、食後時間的余裕をつくって、その間に便意がなくてもトイレに座って出来るだけ便やガスを出すことを心掛けましょう。また日中おならが急に出そうになる事がありますが、上手に中座して(学生なら次の休み時間)、トイレで出しましょう。長時間我慢する事は絶対に良くありません。

 

④薬物療法  そしてどうしてもセルフコントロール出来ない場合は、医療機関で内服薬を処方してもらいましょう。最近この分野は新しい薬がどんどん開発されており、主治医の先生とよく話をして、症状の変化をみながら最適の薬剤の種類と分量を決め、あせらずゆっくりと治療する事が必要です。

 

kakehasi20170402 過敏性腸症候群はストレス社会の広まりと同時に近年少しずつ増えている疾患です。
20~40代の働き盛りの人に多く、だれがいつ発症してもおかしくありません。慢性的な腹痛、下痢、腹部膨満等の症状が出始めたら、まずは御自身の生活習慣・ストレス環境を見直し、セルフコントロールを行い、それでも不十分な場合は近くの消化器科を受診してください。

 

平成29年4月

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